購入したパンフレットに掲載してあったマリガンのインタビューにも「今回は絶対に泣かないと決めた」なんて書いてある。そのせいか、キャリー・マリガンがキャリー・マリガンに見えなかったよ。超かっこいい。
特にワインスタインが編集部に押しかけてきて、それにたった一人で対応しているところ。これがナイスなカメラアナグルで、ワインスタイン役の俳優さんの顔は映さず、彼の背後から、マリガンの表情を狙っているのだが、この演出最高。彼女の表情がいいんだ。
内心怖いだろうに、弁護士などお付きをゾロゾロつれて乗り込んできたワインスタインを上から目線でバカにするような表情。最高にいい。
コーヒーのグランデカップをもってオフィスに入ってくるところとか、食べ終わったりんごの芯をゴミ箱に投げ捨てるところとか、意志の強い女の人が出来上がってる。すごい。
でも実際の彼女は産後の鬱に悩まされたり、トランプのスキャンダルを暴いたのに全然選挙に影響がでない社会に絶望するなど、辛いこともたくさんある。前半ではそれも描きつつ、しかし強いのだ。そういうリアルな新聞記者がそこにいた。いいぞ、マリガン!!
ちなみにマリガンはこの記者さんの家に一緒に住み込んでまで役作りに打ち込んだそうだ。いいなぁ、ある意味羨ましい。有名女優さんだってのは、なんとも思わないけど、そうやって自分の仕事に集中できる立場がほんと羨ましい。
…と、マリガンを褒めるところから書いちゃったけど、映画のオープニングもなかなか衝撃的だ。なんと最初のシーンはアイルランド。「あれ? これバリー・リンドン撮ってる?」みたいなシーンが挿入される。(ちなみに「バリー・リンドンは70年代の映画なので、全然違う映画だと思われ)
そこに偶然出くわす犬を散歩させている少女。続くシーンは少女がボロボロな姿のまま通りを走って逃げているシーン。いったい何が?
ご存じだと思うけど、この映画はハリウッド最高のスキャンダル、ワインスタインのセクハラ犯罪を暴露したニューヨークタイムズの女性記者二人の告発までの努力や苦労、被害になった女性たちの戸惑いや決意、そんなものがつまった実話が元になっている。
それにしても、こういう事件の被害者がいかにその後の人生を奪われてきたか、それぞれの証言者たちの言葉、表情、すべてに説得力がある。ちなみに登場人物はもちろん全員実名。自分役で登場している女優さんが二人もいる。
メインの二人も最高だけど、出演者すべてがこの件について当事者たちに敬意を払いながら精一杯この作品に取り組んでいる。それがひしひしと感じられた。
ちょっと前に日本の地上波テレビで、社会派告発系のドラマが話題なったようだけど、いやー これに比べたら、ぬるいぬるい。なんで日本のテレビは実名で、バシバシ映像作品が作れないのかな。
そりゃー 事実は製作者の目を通したら多少のバイアスはかかる。この映画だって100%ノンフィクションというわけではない。ただそのリスクを乗り越え、批判を引き受けて作品を作る、その熱意だよね。
さらに素晴らしいのは、再現音声が流れたり、証言者たちの涙ながらの証言があるものの、悲惨なレイプシーンの再現シーンなどはまったくなく、とても丁寧に作られていることだ。ここは好感ポイント。そう、逆に証言シーンだけですべてを表さないといけないから、みんな女優魂炸裂だ!! この作品に出てるすべての女優さんたち、すごい。
だいたい単にスキャンダルをスキャンダラスに描くような、そう言う下品な表現方法はもう時代遅れなんだと思う。
そしてこの彼女たちの必死の努力の末、やっと発信された記事の背後にいるのが、彼女たちに理解のある上司たち、そして子育てや家事を分担してくれるパートナーの存在だ。黒人の編集長さん、女性の上司さん、最高にかっこいい!!!
そうそう、劇場で購入したパンフレットにも、演じてる役者さんたちのバイオだけではなく、登場する実在のニューヨーク・タイムズの人たちのプロフィールも丁寧に紹介されてたりしていて、日本の配給会社さんも含め、とにかくこの事件にかかわった人たちに敬意が払われている感じがして、とても好感を持てた。