読んだ。すごい。すごかった。この旅のベースになってる高野さん出演の「クレイジー・ジャーニー」の番組はもちろん見ていたから、あの番組がどういうふうに作られたのか、その裏話をこの本で知れたわけなのだけど、まぁ、それは想像を絶するすごさだった。
もちろん番組を見逃した人でも十分楽しめる内容ではあるのだが。
何が「すごい」のかというと、それは「大変さ」なのであった。何が大変って?
いや、とはいえ、それこそ私が普段作っているライブやイベント同様、いや、それ以上に本に書けないことも、この100倍くらいあったのではないか、と想像したりもする。
でもたとえこれが事実の1/100だったとしても強烈に大変なのだ。
いやーーー いやはや。とにかく「大変さ」は、今までのどの旅よりすごいかもしれない。え、テレビの企画なのにどうして?
それはこの本を読めばわかる。とにかく私は高野さんと旅に一緒に行くのは勘弁したい。そういうノン・フィクションなのであった。よく高野さんがラジオに出ると番組のナビゲーターの方が「高野さん、今度は僕も私も連れてってくださいよ」と、半ばお世辞でいうのはよく聞くが、いや、私は100万円もらったとしても行かないね。(1,000万円もらえるならば検討しないでもないが)
しかも高野さん、何度も書かれているがノーギャラなのである。っていうか、これ、番組の成り立ちのロジックからもわかる。基本高野さんの旅。それを番組は邪魔しない、でも経費は持つから撮らせてくれと、めちゃくちゃ簡単に言えば、そういうことなのだろう。
そして、なんでこの本が面白いかというと、角幡さんの本もそうだけど、著者が苦労すればするだけ読者は嬉しいのだ。ごめんなさい、高野さん、ごめんなさい、角幡さん。読者って残酷よねぇ…
だから高野さんが、あれこれ上手くいかなかったり、苦労したり、虫にやられたりすると、もう読者の方はワクワク感がとまらない。「いったいこれからどうなっちゃうんだろう」と本を読むのが楽しくてしかたないのだ。何度も言います、ごめんなさい。
そもそもエチオピアに行くまでが大変だ。この本が始まって最初の章ですでに「行けなくなり」、そして葛飾区のエチオピアにおちつくという珍行動。もう何が何だかよくわからない。でも、そんなのは序の口。
そして本は、高野さん得意の、ネーミングのもとに進む。ネーミングはこの前の角幡本でも笑えたけれど、探検家の人ってどうしてこうなんだろう?(笑)いや、状況をわかりやすく説明するためには、やっぱりネーミングは大事なんだろうな。言葉をつける。名前をつける。
とにかくこの本の中で、高野さんは「裸の王様」で、エチオピアは「京都」、ガイドのヨハネスは「京都人」なのだった…とか。
そして「前菜」だったはずの場所は、異常に魅惑的。加えてヴィジュアル的にも良い。そして、これは番組を見ている人ならすぐわかる。あれ、「これって、本当は前菜だったの?」とびっくり…。そう、あの番組はほぼこの前菜の集落で出来上がっているのだった。えっっ、そうだったの?
でもテレビ的に「いける」か「いけない」か、それは「そういうことなのだ」と読者は納得。高野さん、そこはもちろん批判しているわけではないのだが、いや、これってすごい鋭いポイントでしょ。
そして、テレビカメラが秘境の村にやってくるとおこる、あんなこれやあれや(笑)。いやーーー いやー特に「メイン」の第4章「劇団デラシャ」には、もう…なんというか笑うしかない。いや、本当は怒っているのだけど…なんか可笑しい。
P長井さんとC北澤さんの「笑っちゃいけないけど、あのときの高野さんには笑いました」というのは、まさに「読者目線」。…いや、この場合は「視聴者目線」なのか? とにかく「これはいい展開だ」「おもしろい」と心の中では残酷にも思ってらしたのかもしれない(爆)
「飲まなきゃやってられないよ」とやけ酒を「酒を主食とする村」で飲む高野さん。いかん、気の毒だけど、やっぱり面白すぎる(笑)
もうなんだろう、テレビの取材って予算もかけているし、本当はもっと楽なはずなのに、いつもの自分の旅のペースを乱されつつ、テレビを意識し返って大変な高野さん。そしてお腹が弱い高野さん。虫に喰われて全身真っ赤な高野さん。あぁ…
そしてもっとかわいそうなのが、それにつきあうD岩本さん(笑)。この岩木さんは本当にかわいそうだった。高野さんに付き合うと同時に撮らないといけない。移動もカメラを持っているから余計に体力を奪われヘトヘトだ。
しかも高野さんは自分が好きだからやっているからいいけど、彼は…どういう気持ちでこれに参加しているのだろうか。
高野本のファンならみんな見る夢。「高野さんの旅についていきたいな」…と。よく高野さんがラジオに出たりテレビに出たりすると、言われる「今度、僕も、私も連れてってくださいよ」というあの夢。
そういう夢を、見事にぶち壊してくれる本だ。
そして夜は夜で、寝れない。寝れない理由については本を読んでほしいのだが…いや、私は絶対に勘弁したい。
高野さん、これめっちゃ悲惨でしょ、と思いつつ、いや、高野さんはこれが好きでやっているのだ、と打ち消すように読み進む残酷な自分もいる。うむ、わかる、わかる気がするぞ(笑)。く、苦しい、そしてなんか可笑しい(笑)。
そして… テレビとはある意味とても残酷。想定していた通りにことが進むことはほぼ皆無。そして途方にもくれる。しかし、通常テレビの海外ロケには日本人のがっちりとしたコーディネーターが存在しているものなのだが…
こう言っては失礼かもなんだけど、2020年代の今でもLAやロンドンでない限り、80点以上のコーディネーターさんに出会えることはマレだ。だいたいは結婚して現地に渡った方が、主婦業と兼務してやっていたりする。言葉は問題ないけど、そもそもガイドが何かということがわかっていない人も多い。
(その点、アイルランドには山下直子さんという素晴らしいプロのガイド・コーディネイターさんがいるのが嬉しい。それが日本で異文化を紹介する仕事をしている私たちのいかに支えになっていることか!)
ましてやエチオピアの秘境。英語も伝わらない人たちの間で、かつ高野さんはなるべくカメラを意識せず、ナチュラルにことを進めたいと希望をする。そして、その結果、全然楽ではない。この矛盾に満ちた撮影は進む。
結構びっくりしたエピソードなのだけど、なんとG… 何と今ではGも、テレビ画面上に映ることができない生物なんだそうだ。Gを極端に嫌う人がいるため、コンプライアンス的に公共では存在しない、存在がNGなG!!! ああああああ… テレビというある意味、大きな表現の壁(笑)。
でも高野さん、偉いよ。ノーギャラなのに、番組に対する責任感もMAX。いや、でもこれは「高野さんの旅」なのだ、それが重要なのだ。その確固たる…確固たる???…何かを守るために!!?
高野さんの本というと、いわゆるハードコア旅物「アヘン」「西南シルクロード」「イラク水滸伝」「ソマリランド」も素晴らしいのだが、私はどっちかというとポップな方(という言い方があっているのかわからないが)が好きで、この本はそのポップな部類に入る、めちゃくちゃ面白い本だと思う。
が、それはもちろん旅の内容がポップなことは全くなく、お腹を壊したり、虫にやられたり、大変さは他の本の群を抜いているわけで…
あ、そうそう、コノソ(前菜集落)で出会った出来る長女とのあれこれは切ないねぇー なんか旅人の切なさもちょっと感じさせるのであった。なんだか、ほろり。この本、泣いたり笑ったり、しんみりしたり、なんだか読んでて忙しい。
あとこの本には別の楽しみもある。今回この本を出された本の雑誌社の熱血営業マンの杉江さんのツイートも併走して楽しむと良い。高野さんの本は、いろんな出版社からも出るのだけど、杉江さんのところから出るとなると、杉江さんの営業の様子が面白くて、こちらもなんだかワクワクしてしまう。(いや、しかしこちらも苦労の連続なのだが)
ほんと自分で編集した本は自分で営業し、納品する。営業マンの鏡。私もがんばらなくっちゃ!!と思ったりして、勇気をいただいています。ありがとう、杉江さん。
この本、こちらで試し読みができます。よかったら、ぜひ。
あと、こちらの辺境チャンネルのイベント動画も必見! このチーム(小林さん、杉江さん)の仲の良さがとってもわかる素敵な動画です。特に最後のお父さまの本については、ちょっと涙。素敵な息子さんで、お父様は幸せですね。
(高野さん、弟さんの結婚式で、結構失態をやらかしたとか何かの本に書いてらしたけど…今やご家族にとっても自慢の息子さんだと思う)
そして最後の、「書くことへの効果」というのもグッと来た。現場を乗り切るため「書く」。ひたすら書く。すごいなぁ、高野さん。やっぱり高野さんは高野さんとなるべく生まれてきたのであった。
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