高野秀行×清水克行『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』を読みました。いや〜最高!

いや〜、すごいですよ。この本。めっちゃ面白い。

というか、言ってしまえば、単なるおタク同士(失礼!)が楽しそうにワクワク感満載で話をしているだけなのかもしれない。

日本史とか、地理とか、勉強だめだったよなぁ… 歴史背景など、私には「これ誰だっけ?」と思い出せない部分や、思わずWikで引いてしまったりする部分なども、多数あったのだが、実際分らなくても楽しく読めた。マニアックな話は固有名詞が分らなくても楽しいということか? とにかく現代を生きる私たちに、新しい視点をビシバシ実感させてくれる本なのだ。

こんな風に世界をみたら、毎日楽しくってしょうがないだろうなぁと、はしゃぐお二人を羨ましく思いつつ…

『世界の辺境とハードボイルド室町時代』が大好評だったお二人の第2弾がこれである。今回は前回と違って、書評をリレー形式で連載という形を取っている。雑誌での2年の連載がこの1冊になったのだが、3などは全8巻にもおよぶすごい本で、高野さんは2週間、清水先生は夏休みすべてをつぎ込んで読んだとか…(笑) すごい…。ちょっと中学生っぽいかもしれない… 

先日、トークイベントにも行って、ホントにこのお二人は仲がいいなぁ、と思ったのだが…。やっぱりこの二人、デキてる…って誰かがTwitterでつぶやいてたけど(笑)、いや〜、お互いに時間と空間というすごい冒険をする同士が共鳴しあい、x軸とy軸が交差するというか、いきなり、いろんなことが腑に落ちる瞬間が、とにかくたまらないのであった。うーん、すごすぎる。

ここで紹介されている本は8冊。改めて紹介すると…

1.『ゾミア』〜文明は誰のもの!?
納豆取材をして行くなかで高野さんが見つけた本。この本を清水先生が読んだらどう思うんだろう、という事から、この企画はそもそもスタートしているのだそう。とにかく強者の論理で書かれた歴史や国家論だけを当たり前に受け止めていた私たちに、すごい目鱗の一冊。辺境に住む、文明に取り残されたと思われている人々は、実は文明からあえて逃れてこういうライフ・スタイルをつらぬいているのではないか…という考察。例えばリーダーを生まないというゾミアの人たちのスタイル。実はリーダーが生まれてしまうとまとまりやすくなってしまい、他の大国家の権力に巻き込まれやすくする、というのはお二人の見解。清水先生の言う「学級委員はクラスの生徒のためではなく、先生が指導しやすくするため」というのに目鱗。自由をもとめて。人間は強いな、そして頼もしい。ところでこれの原書確認したら「The Art of Not Being Governed : An Anarchist History of Upland Southeast Asia」だって。うーん、いいねぇ!

2.『世界史のなかの戦国に本』〜世界に開かれていた日本の辺境
日本の辺境こそ海外との接点だったという、新たな視点というか、もう高野さんが泣いて喜びそうな内容。清水先生が選んだ。琉球の公用文字が「ひらがな」だったとか、もう知らないことが山盛り。それにしても周辺こそ響き合うってのは、いつだか鶴岡真弓先生が言ってたケルトと一緒だな…。中央(たとえばローマみたいなところ)はガッチガチに固まっているので、響きあえない、と先生は言っておられた。あ〜、共鳴し合うマージナルな世界よ…

3.『大旅行記』全八巻  〜イブン・パットゥータ30年の旅の壮大にして詳細な記録
イブン・パットゥータ… 全然知らなかったよ。そしてすごい。イスラムのパワーすごい。行っても行ってもイスラム世界。そして30年もにおよんでしまった旅。イスラム教はキリスト教の宣教師みたいに鉄砲玉的存在が布教するのではなく(1)軍事的な成立(2)スーフィーの奇跡で民間信仰に食い込む(3)商人がやってきてモスクが出来てジワジワ広がるというパターンで広がっていった。とにかくこれを読むとマルコ・ポーロが「幼稚に思える」とまで高野さんは言ってしまう。すごいなぁ。それこそ『東方見聞録』をコンセプトに『Book of Secrets』って名作を作ったロリーナ・マッケニットあたりに、この本をネタに壮大なコンセプト・アルバム作ってもらいたいわ…。っていうか、プログレのアーティスト、誰かこの本を読んで音楽にしてください!(もしかして、もう誰かやってる?)

4.『将門記』〜天皇を名乗った反逆者のノンフィクション
戦争の書き方という事に対しての二人の話が面白かった。実は著者が複数いるのかも?とか、将門に対する評価も書きながら、かなり揺らいでいる、とか…。著者のモチベーションがよくわからない、というのが高野さんの率直な感想。読んでもあまりノれなかったのかな…? 単なる善悪の構図になっていないところがすごい、と清水先生。もしかすると記録として中立に書きたかったのかも?? そこにストーリーやエンタテイメント生を持たせるというのは、まだもっと後の時代の発想なのかも、とも。

5.『ギケイキ』〜正義も悪もない時代のロードムービー的作品
おそらく読むとしたら、これが一番読みやすいだろうとお二人とも薦める町田康さんの作品。最近、清水先生の悪影響か(笑)、歴史小説に出て来るきちんとした武士が妙にハナにつくという高野さん。義経をとりまく物語を現代風に書いた、こっちの作品の方がリアルに読めるのだという。町田康は私は一冊も読んだことないが、これは読まねばならないかも… とにかく「清水ゼミ」において、学生・高野秀行くんが、先生との対話であれこれの町田康や自分の義経解釈をあれこれ確認しているのがいい。高野さん、楽しそうだ…

6.『ピダハン』〜あらゆる常識を超越する少数民族
これは圧巻。発売になった時はかなり話題になったよね。私も気になってた。いつぞやNHKでやってた外界とはまったく接触がないイゾラドと違って、ピダハンは、外界としょっちゅう接触している。が、あえて、彼らはこういう生活をしているのだ、と。自分たちの方が優れているという意識が強くあり、文明とは距離を置いているらしい。すごい。直接体験しか信じない人々。だから宗教も信じない。布教にいった宣教師は結局宗教を捨ててしまう。なんといっても、ピダハンの彼らがめちゃくちゃ幸せそうに見える、我々から見ればくだらないこと(例えばピンポンダッシュとか/笑)を、実に楽しそうにやるという話など。これ、ちょっと「ソマリランド」にも通じてるかも。あれこれ四苦八苦して歴史上の知識を組み合わせ、なんとか人間の知恵をふりしぼって幸せになろうとする現代人と、その民主主義社会。が、そんなものは、彼らの前では吹っ飛んでしまう。もっとシンプルに考えるプリミティブな人たちの方がよっぽど平和と幸福を実現してた、と。うーん、やばすぎる。「西洋民主主義破れたり」…だったっけ、ソマリランドの帯キャッチ。あれを思い出す。かっこいいな。

7.『列島創世記』〜無文字時代の「凝り」
清水先生の「ホモ・サピエンスは現実性を帯びつつ、少しの不可解さや非現実性を残すものや事柄に惹かれるという性向を共通してもっている」「そういう心の動きの産物として、ネッシー、河童(かっぱ)、UFOなどを挙げています」と言う発言を受けて「僕はホモ・サピエンスらしいホモ・サピエンスだったんだ」と嬉しそうに反応する高野さんに爆笑。そして清水先生のめっちゃすごい知識を披露した後にいきなり『はじめ人間ギャートルズ』のマンモスも…みたいな事言ったりしてる。やっぱり、やばいよ、この二人。清水先生もかなりやばい。

8.『日本語スタンダードの歴史』〜標準語は室町の昔から
日本人の生活文化は室町時代に基礎が出来たらしく、話し言葉も室町時代の人にとっては鎌倉時代の人と話すより現代の人と話す方が通じるらしい…。そして最後のソマリにおける「やばい」という言葉のインフラの話も興味深かった。ソマリでも「やばい」っていう言葉(ソマリでは「ハタル」って言う)、それがインフレ気味なんだって。みんながみんな使ってて、まさに日本語の「やばい」と一緒。あ、7を説明しているオレの文章もそんな感じだけどな。


それにしても読んでいて、ずっとワクワク感が止まらない本だった。そして一番の「読みどころ」は、最後の高野さんの後書きだ。高野さんの後書きは、いつも最高で、そういえば角幡さんとの対談本でも最高に面白く、そして泣けた。短いのだが、めちゃくちゃ響くんだ、高野さんのこういう文章。すごいな。すごいと思う。

清水先生が電車の中で読んで泣いたとか言ってたの、分かる気がする。これはオレたち、馬鹿な連中に勇気をくれる文章だ。「歴史を研究して何の意味がある」「知らない国にわざわざ行って苦労してどうする」「危険な目にあってまで探検してどうなる」「こんな変な音楽、聴いてなんか意味あんの?」。

そんな、すべての、ホントに「役に立たない事」に夢中になっているオレたちは、この高野さんの後書きを、涙なくしては読めない。高野さんが指摘しているように、それらすべては、立体的に明確に「自分が今ここにいる」という実感を示してくれているのだから。そして、「これがいわゆる教養ってやつじゃないか」と高野さんは思うわけなのだ。あぁ、もう、なんで高野さんはこんなに分っているんだろう!! 
 
そうなんだ、高野さんはいつでも、そんな風に馬鹿なオレたちの味方なんだ。馬鹿なオレたちが欲しい言葉をくれる。オレも、なんか、もういいんだ。高野さんが分ってくれれば…… うううう、ううううううう…。あぁ、書いてて,また泣けてきた。うん、これ、いろんなことに悩んでいる人は、絶対に読んだ方がいい。すべてが吹っ飛ぶ、大きな世界が開けること間違いなし。そして実感しよう。世界はこんなにすごいんだ、と。そして自分はここにいるんだ、と。とにかく絶対に読んでください。