シャロン・シャノン物語 中編

さて、すみません、さっそくですが前編に間違いがありましたね。シャロンがファーストのレコーディングを始めたのはウォーター・ボーイズに参加する前でした。もっともシャロンはそれをリリースする宛がなかったのは間違いありません。そしてこれがのちに有名なKinvara Sessionと呼ばれる録音となったわけです。パブを借り切って3日間で録音されたこの音源には、ドーナル・ラニー、U2のアダム・クレイトン、マイク・スコットとスティーブ・ウィッカム…壮々たるメンバーが集結しました。その後、シャロンはウォーター・ボーイズに参加し、バンド解散後に同作を仕上げたという流れになります。

あとシャロンが生まれた場所ですが、クレア州Corofin村と古いインタビュー記事には載っており、シャロン自身がCorofinと答えていたのも記憶にあるのですが(当時在籍していたバンドCoolfin=ゴールウェイのとある村の名前と混同しないように、ということで、ライターさんが何度も確認したので、わたしもはっきりと覚えているのですが)、最近のインタビューではBealacanna, Ruan, Co.Clareと答えているものが多いようです。一応、誤解のないように、ここに記載しておきますね。いずれにしてもゴールウェイではなく、クレア州生まれということになります。細かいことかもしれませんが、念のため。

ではでは中編スタートします。


さて、そんなわけでシャロンはウォーター・ボーイズに参加したわけですが、こういう大きなグループに在籍するというのは、シャロンにとっては大きな経験となりました。ロンドンの有名なグラストンベリー・フェスティバルに初めて出たのも、この時だったし、大きなフェスから小さなギグまで、本当に多くを経験したとシャロンは語ります。

そして上記にも書いたようにウォーター・ボーイズの解散後もファーストアルバムは完成していなかったため、シャロンは現在でも彼女のマネージャーでありエンジニアであり大の親友であるジョン・ダンフォードにプロデュースと録音を頼みました。そしてジョンのレーベルHumming Birdからこのアルバムは発売され、これが伝統音楽のセールスとは思えない数の売り上げを記録したのです。実際この作品が、今現在にいたるまで、アイルランドにおいて伝統音楽のCDでもっとも売れたCDということになっています。

そしてシャロンは92年、アイルランドで大ヒットした『A Woman's Heart』というプロジェクトに参加します。メアリー・ブラックが中心となり、アイルランドを代表する女性アーティストを集めたこの作品の中で、シャロンは唯一のインストルメンタリストでもありました。

そうそう、シャロンがインタビューでおもしろいことを言ってました。道で知らない人から「あなたの声は素晴らしいわ」って声をかけられるんだって。そういう人はシャロンの顔はわかるけど、何をしているか思い出せないんだろうとシャロンは考えます。彼らはシャロンがシンガーだと勘違いして、そう話かけてくるんだって。シャロンはちなみに自分は最悪のシンガーだとインタビューに答えて説明しています。今まで歌おうと思ったことは一度もないんだって。「じゃあシャワーの中で何を歌ってるの?」と聞かれて「ジグとかリールをリルティングしてるんだ」って答えてました(爆)。リルティングってわかります? インスト曲を歌うことなんだけど、例えばこういうやつ。

さてそんなシャロンをアイルランドの国営放送RTEが、新しい伝統音楽の担い手として応援しようとLate Late Showという有名番組で彼女の特集が組まれました。これが大変な話題となります。この番組はビデオテープでも発売されたし、DVDにはなってたかな… ちょっと記憶にないですが、現在下記のYou Tubeのリンクで見ることができます。番組にはマイク・スコットはもちろん、リアム・オメンリィ(ホットハウス・フラワーズ)、メアリー・ブラック、ドロレス・ケーン、ドーナル・ラニーなど多くの有名ミュージシャンが駆けつけました。



それにしてもシャロンのアイルランドでの人気はたいしたもので、例えばルナサのメンバーとかと街を歩いていてもあまり人から気づかれないのですが、シャロンと一緒にいると絶対に誰かから話しかけられます。ちなみにダブリンの街で今まで一緒にいて話しかけられたのは、メアリー・ブラック、ドーナル・ラニーくらい。ドーナルなんて、パブで隣の人がチラチラ見てたなーと思ってたら、わたしがトイレにいってる間にしっかり捕まったりして…。みなさん「あなたのアイリッシュ・ミュージックにたいする功績はすばらしい」とか言われちゃってて(笑)。ちなみにポール・ブレイディは見た目が怖そうなので、一般の人からは話しかけられない。でも明らかにみんなに気づかれてるな、と思うことは度々…といったところでしょうか。

さて話をシャロンに戻して続くセカンドアルバムは、なんとロンドン在住のレゲエ・アーティストのデニス・ボーヴェルが参加という形になりました。これが『OUT TO THE GAP』という94年の作品です。

下記のライブ映像はその当時のシャロン。のちにルナサのメンバーとなるトレヴァー・ハッチンソン(ウォーターボーイズでの同僚でした)とドナ・ヘナシーがかっこいいですね。そういやわたしが初めてこの2人にあったのも、シャロンを見送りにマネージャーのジョンとダブリンの空港に行った時のことだったように記憶しています。シャロンにくっついて空港行ったら彼らがいた…みたいな。向こうは覚えてないだろうけど(笑)。それにしてもかっこいいリズム隊! この2人はほんとうに一味違うんだよなぁ。特にギターのドナのシャロンの演奏を見つめる真剣な眼差しがいいですね〜。



そして96年、シャロンはドーナル・ラニーのリーダー作『Common Ground』に参加。この作品はドーナルのキャリアの、その時点での集大成ともいうべき傑作で、アルバムにはケイト・ブッシュ、U2のメンバー、ポール・ブイレディ、モイア・ブレナン(クラナド)、シネイド・オコナー、エルビス・コステロらが参加した豪華なものでした。そしてシャロンはドーナルのグループの1員として初来日を果たすこととなります。

下記は『Common Ground』からシャロンのトラック『Cavan Pothiles』。ドーナル・ラニーがシャロンをイメージして作ったこの曲。本当に名曲ですね。鼓童のみなさんとの素晴らしい共演でお楽しみください。特に…これは金子竜太郎さんかな…の直後のジョン・マクシェリーのパイプが最高にイカしてます! レッド・ツェッペリインかと思っちゃいましたよ!(ジョンはこのあとルナサに参加することになるわけです)そしてすべてをまとめるドーナルのブズーキ。最高!



この頃のシャロンの印象はといえば… シャイなのかなんなのかステージでは一切しゃべらず。ジョン・マクシェリーらと一緒によく飲み、よく踊り、よく集合時間に遅刻する(笑)。とにかく打ち上げとなると突然、豹変して宴会部長と化してはじける。忘れ物が多い。そういう印象の可愛い女の子でした。インタビューでも口数が少なく、写真撮影といえばカメラマンの人に「うーん、楽器を持たせた方がいいかな。何かに触ってると人間って落ち着くんですよ」とか言われちゃったりして、かなり素人っぽくシャイだという印象を受けました。とてもステージにあがって、たくさんのお客さんに向かって演奏しているミュージシャンだとは見えない感じでしたね。

98年、サード・アルバム『Each Little Thing』も発売になり、2000年の『ダイアモンド・マウンテン・セッションズ』では多くのヴォーカル・ゲストを迎え、これが伝統音楽においては驚異のプラチナ・セールスとなります。(アイルランドのプラチナは確か15,000程度なんですが、トリプル・プラチナということは人口比からしたら…ものすごいですよね。日本でいうと300万枚くらい? すごすぎる)

2002年には『Live in Galway』という素晴らしいライブアルバムを自身のバンド:ウッドチョッパーズとリリースし、ここで始めて単独来日を実現させました。シャロンが変わったな、とわたしが思ったのはこのころです。ホテルのロビーでの待ち合わせでも一番早くくるようになりました。まぁ、当然ですよね。リーダーが遅いと全員が遅れるけど、リーダーが一番早くくれば全員が早く来るようになる。そんな自覚が少しずつシャロンの中に生まれてきたんだと思います。

この曲「Bonnie Mulligan」では、シャロンもフィドルを持ち、リズ&イボンヌ・ケーンとともにトリプルフィドルを聞かせてくれています。



その後は、2004年『リベルタンゴ』(本作は在庫がわずかに見つかったのですみだトリフォニーの日に持っていこうと思っています)2005年の『チューンズ』と続き、ライブでも大人気のシャロンはアメリカ、ヨーロッパ、アジア各地をツアーしてまわるようになります。そしてクリントン大統領、オバマ大統領の前の御前演奏も!

そしてなんといっても桁違いのヒットになったのがスティーブ・アールとの共演『Galway Girl』もっともこちらはビールのTVコマーシャル曲に起用されたのがきっかけだったようですが、いずれにしてもたいしたものです。下記はそのビールのCM。





そしてこちらは最近の映像ですが、圧巻のWe Banjo 3との共演! Mundyがリード・ヴォーカルを歌います!



こうしてミュージシャンのキャリアとしては最高の道を着実に歩んできたシャロンですが、実はその裏側で大変な悲劇が彼女を待っていたのでした。

続きは後編を待て!!

さてこの回の最後に今回のシャロンの招聘元であるプランクトンの副社長、Hさん作のケルト川柳を一つ、お届けしましょう。

 シャロン・シャノン 日本で言ったら 千代田千代(ちよだちよ)

ケルティック ・クリスマス、およびシャロンの来日日程はこちらへどうぞ〜

なお今年のケルティック・クリスマスの見どころをプランクトンの是松さんが語っています。こちらも必読ですよ〜!! まだチケット買ってない方、今年はどうしようかなぁと悩んでいる方、久しぶりにいってみようかしらと思っている方。迷っている時間はありません。ぜひお運びください〜 


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