いやー すごい内容だった。これは私みたいなオーケストラを知らない人間には開眼!!みたいなすごい内容。クラシック好きな人も、クラシック初心者にも、ぜひぜひ読んでほしい。今のところ私にとっても今年のノンフィクションNo.1かも…というくらい大好きになってしまった。
この本を読むことで、ホールってこういうことなんだ、オーケストラってこういうことなんだ、音響設計ってこういうことなんだ、ということの理解が進む。そしてもっと言えば仕事ってこうやって広がっていくんだ。信頼を得ていくんだということも勉強になった。ちょっとドキドキが止まらない。
それにしても、いやー まずはサントリーという企業のスポンサーとしての姿勢にちょっと感動してしまった。実は私は今回のウィーン・フィルの来日のことでサントリーホールの大ファンになったのだが、それがさらに強固なものになった。本当にこの時期に先陣を切ってくれた勇気とそのリスクをとるという覚悟。それはこんなふうな信頼関係の中でないと不可能なものだ。本当に素晴らしいと思う。たまたま数年前にサントリーで働いている方のお話を聞く機会にも恵まれ、サントリーのスポンサーとしての大きな姿勢に感銘を受けたのだった。(一方の森ビルは…以下自粛)なのでサントリーホールの立ち上げ期の話は、非常に興味深く読んだ。そして、あの悪評判は、そうか、そういうことだったのかととても感動した。
確かにサントリーホールは音が悪いという話は当時ものすごくあった。それは私もよく記憶している。それが、いや違う、それはホールの音響のせいではない、それはこういうことだったんだ…とこの本を読めば理解できるのだ。とにかく目鱗!
ホールが演奏者を育てる、ということ。いやもっと言えば音楽が演奏者を育てる、ということか。そしてその文化は東京という都市も育てる。これは伝統音楽にも通じる絶対哲学なのかも。すごい、音楽ってすごい。そして「聴く」という重要な哲学も。「聴く」ということが、音楽をさらなる高みへと導くのだった。ほんと、神様のもんかもしれん、音楽って!! いやいや、大袈裟ではなく。っていうか、音楽はきっと人類に神様が与えた魔法だね。魔法だよ。そして文化ってこうやってできていくんだ、と改めて。
あと紹介されている小さなエピソードにも心が動く。とあるスポンサーがらみの打ち上げに招待された時も、豊田さんに取材ということでついていった石合さん(この本の作者)に豊田さんが「ちょっと今夜の打ち上げには同行は難しいかも」と打ち上げ主催者(世界的な著名指揮者)を気遣い声をかけられていたのは当然として、そんな中、その打ち上げ主催者は豊田さんに同行している石合さんをみて「打ち上げにはお前も来い」と自ら誘ってくれたのだという。そういう件にも感心してしまった。こいう流れが自然に可能になり、お互いものすごく近いながらも相手の立場を気遣える仕事上の人間関係というのは実はとてもレアなのだ。こういうエピソード、私には超ひびくんですけど!!
もっというと、実は打ち上げって、本当に難しくて主催者としては人選にも場所にも気を使いまくっていうのに、勝手に友人を招待しちゃう人もいるし、「他の誰々誘ってないから、周りに気づかれないよう黙っててこっそり来て」と事前説明しておいてもペラペラと打ち上げに行ったと喋りまくっちゃう人もいる。ただでさえ苦労の多い公演の唯一勝利を分かち合うための打ち上げを自分の好きなように仕切れなくて、ほんとに悔しい思いをしたことはこの私でさえも何度もある。(ま、この話題はまたいつかきちんと書く・笑)
と、まぁ、こんな小さなエピソードにも豊田さんとマエストロ、そしてライターの立場である石合さんのお互いへの信頼の深さが感じられて、いたく感動したのだった。
そしてこの本を読むまでは、指揮者という存在の意味も、なんだか私はきちんと理解していなかった。この本を読んで改めて指揮者という存在もこういうことかと理解する。そして例えばスゴいオーケストラが来日するとそれに同行し、リハーサルから立ち会うという豊田さんの話にも圧倒された。そして公演が成功した時の「にやっ」とするあの感じ。素晴らし音楽作りに、自分も関わっていくということを喜びとする豊田さんの姿がここにもある。
ところで、この本、アイリッシュ・ミュージック・ファンにとっても他人事ではない(笑)。というのも、この豊田さんは日本を代表するアイルランド音楽のミュージシャン:豊田耕三さんのパパなのだ。
この本のことは、友人がfbで「すごくいい」と紹介していたのを見て知ったのだが、「あれ? 永田音響? 豊田?」ということで、耕三さんご本人に確認したところ「そうです」とのこと。ただご本人はこの本をまだ読んでいないらしい。なんともったいない。というか、こういうこと、直接話が聞けるんじゃないか、これはすごいことだ! いや、パパだからこそ聞くのは難しいのかもしれないけど。という想いはあれど、実際自分が豊田さんの立場になった時のことも想像できるので、そういう親子のお互いを応援しながらも仕事上の適切な距離の取り方もいいなと思ったりした。さすが、です!! とにかくこの本は全ての音楽ファン必読。
ラジオ深夜便に豊田さんが出演されているのを発見。こちら。
あとだいぶ前に永田音響の方のレクチャーを受けた時(at 武蔵野文化事業団)の話も興味深く思い出した。その時のブログはこちら。
ちょうどこの本を読んでいたころ、チャイコのヴァイオリン協奏曲とピアノ協奏曲を聞きに高崎に行ったんだけど。このホールも不思議な形だよね。
なう! pic.twitter.com/16uZcFUMPN
— 野崎洋子 (@mplantyoko) March 26, 2021
私も私の仕事をがんばろう。フィンランドのペッテリ・サリオラ。4月20日(火)代官山のライブハウスにて。TOKYO SCREENINGの第2弾です。詳細はここ。
マンボウ発令されちゃったけど、感染対策がんばりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
PS
こんな記事も教えていただきました。必読。
[豊田泰久×林田直樹対談]ポスト・コロナ時代のオーケストラと音響を考える(1/3)|アルテスパブリッシング #note https://t.co/WhmEm22ZvZ
— 野崎洋子 (@mplantyoko) April 14, 2021