タイトルを見ても驚かない。だって角幡さんがずっと言ってきたことだったから。
43歳ね。植村直己さんが亡くなった年齢。私は何をやってたっけ。来月60歳になる私のそれは、2009年のことだ。サイトの自分の仕事のアーカイヴを見てみれば、43歳の自分はほぼ毎月誰かを来日させ、すごい勢いでライブをやっている。確かにすごいな、43歳。
1月に英国からグレン・ティルブルックを、そして2月にエストニアからティト・キカスを招聘した。お相撲の把瑠都関が公演に来てくれたっけ。あの時出会ったAさんとは、あれから仲良くなったんだった。
3月には、パトリックス・ディにかこつけてメアリーの次男のバンド:コローナズのCDをビクターで出してもらい初の来日となった。あれはよかった。
「もうトラッドバンド呼んでも、あまり広がりはありません。お客さんの顔も覚えちゃったよ。それよりも新しいジャンルをやって、メジャーなレコード会社さんも絡めましょう」と政府観光局さんを説得したのだった。偉いよなぁ、わたし。そう同じこと繰り返してても意味ないもんね。
そしてすぐに4月にヴェーセンがスウェーデンから来日し、翌月にはノルディック・トゥリーが来ている!! すごい。ハーモニウムだって空輸した!
その後に来日した6月のグラーダのあと7月にまたグレンが来て(これは例の山登りチャリティだろう)、10月にはアラマーイルマン・ヴァサラットとアイヴォールという、これまたすごい公演を行った。あれは楽しかった。
そして最後にLAUが来日。これはプランクトンさんが呼んでくれたんだっけか? うーん、よくやるよなぁ。でも43歳の体力だったら、まぁ、可能だった。今はもう無理だよな。
仕事をしていていつ頃が一番楽しかったかと言われれば、確かに2000年の前半は最高だったかもしれない。もっとも忙しすぎて、細かい記憶がほとんどないのだが。
呼ぶだけじゃなくて、海外にも年に4回は行っていた。3ヶ月行かないと息が詰まる感じだったので、あの頃はそんなペース。現地で見たコンサートや行った場所などもきちんとどっかにデータにしてアーカイヴ化したいもんだが、そんな掘り起こしが可能なのか。面倒くさくてやる気にならん。
そんな文字どおり怒涛の日々。
43歳。そうか、やっぱり仕事的にはこの辺が限度か。職業によっては、もっと後の年齢の方が盛り上がる可能性はあるという人もいるだろう。一方で30代になったら終わるみたいな職業もある。
でもなぜか角幡さんの本や考え方、角幡さんの行動と妙に波長があってしまう自分は、探検家と同じようなテンションで、自分の職業に当たっていた一人なのかもしれないなと思った。だからこんなに角幡さんの本が好きなんだろうなと思った。
ちなみに角幡さんの方が自分より10歳くらい年下なんだけど。
でも角幡さんがこの本で言っている、若い時代を経て自分がどんどん固有化してくるこの気持ちの良い感じ。自分にしかできない何かを思いついてしまったら、もうやらずにはいられないこの感じ。それは自分もまった同じだなぁと共感する。
やばいよなぁ(笑)私もほんと探検家気質なんだろうか。
ちなみに「自分の固有化」というか、他の誰にも代えが効かない人間になっていくことについてだけど、この本のとっても重要部分な部分だと思うので、
サラリーマンやったりフリーでも雇われること中心に動いていることのために不肖わたくすが、この本の「この重要部分」を翻訳してさしあげるとすれば(上から目線)、こんな感じ →
若い頃は、何が自分の強みかわからないだろうけど、自分がちょっとでも楽しいと思えること、これは得意かもと思えることに頑張り、そして、そのうちに人や周りから「ここがよかった」って感謝されたり「これは自分の強みかも?」「得意分野かも?」と思える部分が発見できたりしていくでしょ? あの感じと同じだと思っていい。
そんなふうに「反応の良い面」を集めていくと、自分の「固有化」は進むよ、ということ。これは凡人でも同じ。実際、天才、凡人、あまり関係ないのかも。
だから角幡さんみたいに、そして私の半分がそうだったように、自分の中から湧き出でる何か確固たるものがなくても、別に構わないんだ。
ただ自分のそういう過去の集合体でできた実績や実感みたいなもの、直感みたいなものを大切にしていこう、ということ。それをこの本は、言っているのかも。
もっともマイペースな角幡さん。それを「読者のため」と思っていないところが、これまたかっこいい。そうやって、角幡さんは前を行く。本を書く。読者はそれを読んで、噛み締める。
あと、これは余計なことかもだけど、ここでさらに「自分の好き」より「人から要求されること」を優先できる人はお金も儲けられるかな… ということを書き加えておこう。
また加えてどんなにギャラが良かったとしても褒めてくれない雇い主からは「離れましょう」、ということも。
以上、還暦おばさんからのクソバイスでした(笑)本の主旨からはずれたかも。でもそういうことだよね。そういうこと。
それにしても、今回の新作でも角幡さんがド真面目に書いている部分で妙に吹き出してしまったりもする…いや、やっぱり笑いを狙ってるのか、角幡さん。
「異常興奮を覚えて病院にはこばれた」とか笑いを差し込んできたり(p49やp129)、ちょっとうっかりすると電車の中で笑ってしまう場面も多いので要注意。
そして、なんといっても新書なので、あっという間に読めちゃうところもすごい。相変わらずの文才だよなぁ。
角幡さんの本を一冊も読んだことのない人は、これを1冊目にしてもいいかもしれない。
最初に書いた植村直己の焦り、そして私もリアルタイムで聞いた平出和也さんと中島健郎さんのK2西壁滑落のニュースなどなど。とにかくスイスイ読めてしまう。
このK2=自分の山のところの文章は、グッと来たな…角幡さんからの平出さんたちへの追悼…というか気持ちだ。
実はこの本を読み終わってから再び視聴してしまったのだが、こちらのNHKスペシャル。すごく良いので、ぜひ。この二人も、また、真の冒険家であり圧倒的な人たちだ。
いつもかっこいい平出さん、そして「おっさんみたいになってきた」と言いながら涙ぐむ中島さんが本当にいい。「なんで登ってんだろ、といまだに…」「わからないからこそ、魅力がある」まさに二人の行動こそ、クルティカの言う『アート・オブ・フリダーム』だ。あれは名著だった。
この本に再び視線を落とせば、角幡さんが書いた『漂流』(あれも私は好きな本だったけど、確かに他の角幡本とはちょっと違う)からの、「北極漂白行動」への、ご自身の分析も一人のファンとして納得しながら読み進む。
そうそう、開高健は私は実はあまり好きではないのだが(あの辺の「いわゆるおじさん文学」苦手なのよね… すみません)、一応『夏の闇』は角幡さんに他の本(書評本に載ってたんだっけか)に言われて渋々読んだ。
面白いとは思ったけど、一度しか読んでないし、角幡さんがいうほど自分にはピンとは来なかった。
続く角幡さんの三島ブームももちろん存じあげていたけど(生誕100年だったんだっけか?)、これまた荻田さんの店であわてて読むべき三島本を数冊仕入れて、You Tubeの三島の番組いくつか見て終了。買った本は、すべて積読という結果となる。
(三島読んでみるかと思える時が来るのだろうか。積読の中でもプライオリティは低い)
そして、当角幡本の最後はシオラパルクを拠点とし北極で活動していながらも2023年に姿を消してしまった犬ぞり探検家の山﨑哲秀さんの話題も。このかたもすごく面白い方だし、実際犬の写真集買ったりもしたけど、やっぱり角幡さん以上には私は興味が持てなかったけど、それでもやっぱり角幡さんは仲良しだったから、書き残しておいたのかなと思った。
それにしても43歳ね。自分のことを考えてみても、多くの友人の姿を見ていても、確かにここが頂点でいいのかもと思う。もちろんこれが楽しさや幸せの頂点ということではなく、これ以降も未来にすごいことが待っている可能性はある。
でも、わかる。ま、なんというか、もういいっかな…と。そう思えるのが、角幡さんも言っていることだけど(角幡さんは今、49歳)、歳をとることの幸せなのだよな、と。
ところで今回のこの本、今までの作品以上にとても売れているそうである。他と何が違うのか。東出さんと出た You Tubeの効果があったとお話しされてたけど、本当だろうか。
東出さんのことは、よく知らないのだけど、いいねぇ。角幡さんを見る目がキラキラしていて、心から尊敬しているのがよくわかる。一方番組MCはなんか失礼このうえない。
確かに普段の角幡さんファン以外の層にアプローチしたのかもな。また角幡さんのいわゆるハードコアな探検記、漂白記よりも、こういったエッセイの方が「読みやすい」というのはあるのかもしれない。
動画貼っておくのもなんだけど、いちおうくっつけておく。それにしても、どこへ出ても、誰を相手にしていても変わらない角幡さんは、やっぱりかっこいいなと思う。私もこうありたいなぁ。
荻田泰永さんの冒険研究所書店でのイベントはリアルの方で申し込んでいたのに、風邪をこじらせ、配信で見ることになったが、それでも十分パワーをもらった。
こちらはちょっと長いけど、内容すべて素晴らしい。荻田さんが相手だと、角幡さんから出てくる言葉も違う。こちらでまだ買えます。
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◎1996年からかかげてきたTHE MUSIC PLANTの看板は2025年12月にて下ろすことにしました。公式サイトは近日中にアーカイブ化する予定。主催公演や招聘はもう行う予定はありませんが、2026年も若干雇われ案件(笑)があるので、それはゆっくりとこなしていく予定です。これからはのんびりと。
PRの仕事は続ける「かも」しれませんが、まぁ、それはクライアントさんあってのことだからなぁ。どうなるかなぁ。
この日記も自分のペースで続ける予定。fbページは適当に閉じます。大好きなTwitterは以前と変わらない自分ペースで続けます。1日平均30ツイート。はっきり言ってうるさいと思います。
