面白かった! この映画、見る前から前評判はすごく良く、女性でしかも素人から立ち上げましたプロモーターの話だということを聞いていたので、私はおそらく大好きであろうと期待を膨らませて公開日を待っていた。
実際、リアルな友人に「あれはきっと野崎さんみたいだろうから見たらいいよ」と何度も言われたし、自分もトレイラーを見ては、めっちゃ感情移入して、すでにその時点で泣いていた。
そのくらい楽しみにしていた。で、結論から言うと、はい、すごく好きでした(笑)。
しかも、なんか元気をもらった。月並みな言い方だけど、これが「元気」というやつなんだと思う。生きる力、自分のやりたいことを絶対に実現させる力。それが「元気」なのだと思う。
細かい説明は省く。あのキース・ジャレットの伝説の名盤「ケルン・コンサート」にまつわる裏側のリアルなストーリーを描いた映画である。実はあの伝説のコンサートを作ったのは、高校生の女の子だった、と。
私はキース・ジャレットの音楽はよく知らない。マーティン・ヘイズがいつだったか一緒にタワーレコードの渋谷に行ったときに買ってプレゼントしてくれた「ラ・スカラ」くらいしか聞いたことがなく(大好きな作品である)、それ以上は聞いていない。
あの、最後に「Over the rainbow」が入ってて、めっちゃ泣けるやつ。
この「Over the rainbow」は、すごく感動的だし、聞くたびに新しい音を発見し(それにいちいち感激し、震える!)、短いので、長いジャズのインプロ苦手な人(それは私)にも、超おすすめ!
しかし伝説の「ケルン・コンサート」をプロモートしていたのが高校生の女の子だ、というのはすごい。でもわかる。音楽って、時々人間に本当にすごいことを実現させちゃうことがある。私だって、音楽の力に引っ張られて生きてきた、そんな一人ではあるのだから。
ある意味、下心があったのかもしれないが、彼女にチャンスを与えてくれたロニー・スコットの存在がいい。あぁいうの、ミュージシャンは直感として分かるんだ。あぁやって、こいつは自分のやりたいことを実現するのをきっと手伝ってくれるかも、と直感で相手を見抜く才能。
だって、それがないとミュージシャンは生き残っていけないからね。
だからロニー・スコットが経験値ではなく、彼女のスピリットを選んだのはすごく理解できる。そういうのが出会いなんである。で、彼女の方も「これはいけるかも」と思っちゃったりもする。そうなんだ、わかるんだ、お互いにこれは絶対にすごい出会いだ、って。
それにしても、すごい。なにせ70年代でインターネットもないから、彼女は電話帳をたぐりながらライブハウスに連絡をして、しらみつぶしにロニー・スコットをブッキングしてくれないかと当たっていく。
そして、最初のブッキングができた時の喜び。サウンドチェックって何?みたいな(笑)
でも、わかる、わかるよ!! 私の場合、コンサート業のスタートはケンソーのIN THE WESTのコンサートだった。あれをブッキングし、何ヶ月もかけて準備して成功した時の感動ったらなかった。そういやあの公演も「名盤」としてプログレ史に残ったよな(笑)
あれだって、清水さんがライブをやりたいと言ってくれたから出来たのだ。清水さんに「それどうやってやるんですか?」とは言えない(笑)。そして当時ウェストにいた寺田さんが、私を信用して小屋を開けてくれたから出来たのだ。
あっ、いかん。ついつい自分のことに引き寄せて語ってしまう。でも、彼女のあの感じは、すごく私は「気持ちわかる」のだ。もう、やばいよ。泣くよ。
そして厳格なファミリーで育ったのは私も一緒だ。ウチの親は、学校の先生と電電公社(今のNTTです)勤務で、まったく頭が固かった。
昔、たぶん私が中学生だったか高校生だったかの時に「文章を書いてみたい」と言った私に父親が言った「そんなことできるわけない」という言葉は一生忘れない。
ふん、私だって文章書いてギャラもらったりしてるんだよ。ばーか、ばーか(笑)ここのブログにGoogle先生の広告貼ってた時は、20年で20万もらったしな(Mac1台分だ!)。確かに食ってはいけないが、書いて発表することなんていくらでもできる。
実際、親だからといって、たまたま親ガチャで引いた存在だけなのだし、こちらが選んだわけじゃない。それがこんなことを言う権利がよくあったよな。
そういうことを私もネチネチといつまでも覚えてんのよね。そういう意味では、私もこの映画の主人公と同じ「父の娘」なのだ。
いや、誤解なきよう。私は両親に愛されて育ったという自覚はある。ただ価値観があわないんだな。
購入したパンフレットによると、冒頭のパーティの父親のスピーチのシーンなどは本当に起こったことだそうで、彼女は実際、今でも家族とあまり上手くいっていない。
でもそれが間違いなく彼女の原動力になっている。(私の場合はどうだろう。でも田舎には絶対に帰らないぞという気持ちは常にあるな)
とはいえ。
とはいえ、あんなふうに「飛べる」のは、やはり良いお家に育ったからってのもあるんだよね。良い環境で育った子って、ある意味、思い切って飛べる。一方、貧乏な家庭で育った子こそ堅実な道を歩む…と私は思っているのだけど、違うかな。どうでしょう。
ウチも決して裕福ではないけれど、でも親は固い職業で、生活の不安はなかった。還暦になったというのに、結局真の苦労や貧乏は知らないと思う。
例えば都内でも有名な某アートな音楽集団。メンバーはみんなおぼちゃま・おじょうちゃまだ。そしてその誰もが、親から独立し、ヒッピーみたいな貧乏暮らしや価値観を楽しんでもいる。
ある意味、彼らの方がお金とかそういうものから自由なのかも… そして貧しさに苦しめられた人は、なかなかお金がない恐怖から解放されない。
あ、話がそれた。
でもわかるんだよね。そして!! なんといってもキースの音楽と出会った時のあの感じ。「これは私の音楽だ」「これは私がやらなくちゃいけない音楽だ」「これが自分の使命だ!」って。誰にも渡したくない、あの感じ。もうそれは出会った瞬間にわかるのよ。
もっとも彼女がこの仕事を始めたのは高校生の時。私は独立したのが30歳だったから、彼女ほどの無鉄砲さはなかった(と思う)。
でも彼女がキースの演奏を観て、速攻でコンサートを企画した気持ちはよくわかるんだ。あのシーンは、本当に良かったよねぇ。雷が落ちた。そういう感覚。
そして映画では、彼女にもびっくりさせられたけど、もっとびっくりしたのはキース本人。彼についてもたくさん「リアル」が描かれていたのがすごいと思った。っていうか、いや、私はわかってたな。私もわかってた。ウチの内情も似たようなもんだもの。
でも私の場合はミュージシャンには絶対に苦労はさせたくない。だからあんな長時間のドライブはありえないけどね。そして余計な見栄(飛行機使って旅しているふりをすることなど)は貼らない。
実際、プロモーターによっては本当にあんな風に、現代の日本においても車で移動させてるプロモーターもいるのは知っているし、若いミュージシャンでそれを嫌がらない人も多い。
でもウチの場合、空港からの移動はよほどのことがない限り専用車…などなど。自分の判断で、焼肉諦めてなんとかできる範囲であれば、そちらを選んでいるのだが…
でもってびっくりだったのが「このロードマネージャーさん、素敵だなぁ」「ミュージシャンに対する対応など勉強になるなぁ」と思って見ていたその人が、実はのECMの名プロデューサーだったということ。こうやって作ってたんだね。あの名盤たち。
映画見る前には知らなくて、ちょっとびっくりした。テンパるキースを宥め、面倒を見、ドライブする。そしてキースも「ありがとう」とか声をかけたりする。
あの「ありがとう」にはグッときた。私もポールとかクソ!とか思うことあるけど、あぁいうふうに言われちゃうと、もう絶対に許しちゃうんだもの(笑)。
私とか言ってECMとか詳しくないけど、いや、それでも音源何枚か持っていた。フリフォトのこれなんか名盤中の名盤だよね。
ただホント彼らのペアでわからないのは見栄をはったりするところかな… まさか小さい自動車でツアーをしているとは思われたくない、ということらしいのだけど、正直見栄をはるのって、めっちゃコスト高だからね。
ちょっとその辺は「男はバカだよなぁ」(←すごい偏見)と、弱小プロモーター(=私)のくせに思ったりしたのだった。ひどいよね。当代名アーティストと名プロデューサー相手に(笑)。でも、男の人って、へんなところあるよね、ほんと。
それにしてもキースったら!!! ポール・ブレイディによく似てる。ポールもあんなふうに自分の才能をコントロールすることに命をかけているのだが、それは本人にとっては荷が重く、いつも苦労しているように私には見える。
でもそれがポールがポールたる所以なのだな、とも思う。本当に可哀想になるくらい。でも時々、「ありがとう」とか言ってくれるキース同様、ポールも可愛いところあるから、やっぱり大好きなんだよなぁ。
本作、話の前半は彼女のバタバタ、そして次はキースのバタバタ。最後は彼女とキースのやりとりと続く。そして最後は「きっとそういうオチになるだろうな」とは思っていたけど、やっぱり嬉しかった。
でも、あのオチはわかるよね。というのもアーティストにとっては「公演中止」は何よりも痛いことだから。っていうか、公演は組んで発表しちゃったら、アーティストとプロモーターは、もう一緒の泥舟なのよ。
アーティストにとっては何より自分のキャリアに傷がつくからね。「あのくそプロモーターがバカだったせい」と言い訳することはできるけど、そのプロモーターにOKを出したのは自分だからね。やっぱり言い訳は聞かないわけで。
つまり、そこなのよ! そこ! そここそがプロモーターとアーティストが同等という確固たる理由なのよ。
ヴェラとキースのやり取りはそれでも冷や汗が出るけれど、あそこで彼女はプロモーターになったのだと思う。公演を絶対に中止にするわけにはいかない。そしてキースと対等に掛け合う。あそこだ。あそこは重要ポイントだと思う。
ビジネスだから! アーティストとはWIN-WINでなくちゃいけない。
そこは私は強く共感した。主催者と出演者は対等なのだ。そしてだいたいは主催者の方がちょっとだけ偉い(と、私は少なくとも思っている・笑)。だって、ギャラを払うのは主催者だからね。
もちろんアーティストが巨大で、プロモーター同士で取り合いになるような人だったら、ちょっと違うのかもしれない。
でもウチの場合は、そうじゃない。そして、これはただのファンでは出来ない仕事なのだから。あそこで彼女はただのファンから、プロモーターになったのだと思う。
もっと言ってしまえば、私があの仕事をずっとしていたのは、世にもすぐれたミュージシャンの人たちと自分が対等になれる、という自分自身の欲求を満たしていただけだったのだと思わないでもない。っていうか、きっとそうだ。
でもそこなのよ。ミュージシャンを神格化しすぎて、相手をちゃんと人間として見てない人が、やっぱり世の中多すぎる。
と、同時に、アーティストに嫌われるとか、そういうことはどうでもいいのだ。アーティストに嫌われたとしても、すごい音楽を実現させる。それが主催者の究極の使命なのだから。
そういう意味では、ある意味残酷だ。でも、私も彼女もあのすごい音楽に身を捧げたのだから。
そして音楽は、主催者の死に物狂いの必死さや、キースの演奏に対する不安や恐怖をも糧にして飛翔していくのだ。それはもう残酷なまでに。
だからキースがのちにあの名盤の存在に苦しめられたことは、ものすごく理解できる。
そうそう、それと、会場であるあの劇場の冷たさよ。偉そうな秘書の女性をなだめすかしつつ、それでも公演を何かするしかない。あの大変さよ。
あの「ホールあるある」は今でも似たようなもんだ。もちろん心が入った担当者もいるけど、それは本当に数えるほど。だいたいのホールやライブハウスは、わたしに言わせりゃ不動産屋だね。まったく理解に苦しむけどね。(もう仕事やめたから言いたいことが言える・笑)
もう音楽の仕事やめて、不動産屋か金融屋になった方がよくないかい?(笑)
いやーー いいわ。この映画!
そして、もちろん(笑)キース本人はこの映画に自分の音楽を使われることを拒否したのだという。いいねえ!!
それを「ちっちぇぇ…」と悪くいうことは私にはできない。ちっちゃいのだ、ミュージシャンなんて。人間なんて、このすごい音楽の前にはちっちぇのだ。主催者だって。ちっちぇのだ。
本作の監督はキースの死後、この作品を家族の人の許可を取って音楽ありで作りあげることができたのかもしれない。
でもこの作品を今の時点で、こんなふうに作り上げたのが、本当に素晴らしいと思う。私は監督に拍手したい。そして主演の彼女にも拍手したい。
最後に主役の女優さん二人と本物の彼女が登場して観客に手をふるのだけど、そのシーンとか最高だ。いえーい!!って感じ。
キースが見たら、なんと思うだろう。ふふふふ、ちょっとザマーミロ感がある(笑)。
…はっ、私ったら巨匠になんてことを… でもそういうことよ。っていうか、きっとキースも笑ってくれるんじゃないかな。そのくらいのユーモアは持っててほしいな。ちなみにポールだったら絶対に笑ってくれるだろう。
って言うか、笑うことのできる、戦いの終わった余裕のあるキースで、今はいてほしいよ。少しはリラックスしてね…もう自分の才能と戦わなくていいんだよ、と。
さらにもっと言えば、音楽的に素晴らしいものが商業的な成功からは程遠いのは、今に始まったことではない。っていうか、それをチケットを売る音楽プロモーターは痛いほどリアルに噛み締めていて、私はそんな一人だと思う。
これだけ高い評価を得ながらも、今もSpotifyのリンクを貼りながら、キースのSpotifyの再生数やフォロワー数の少なさにびっくりしてしまう。そして世にもくだらない音楽の再生数がものすごかったりするわけで。
そんなもんなのだ、世の中なんて。世の中なんて、大馬鹿なのさ。あっ、言っちゃった。
そして普段はお姉様が多い有楽町のヒューマントラスト。私がいったのは初日でソールドアウトながら会場はいわゆる私よりもかなり年上と見られるおじさまたちで埋められ、はっきり言って空気があまりよくなかった。(いや、冗談ではなく、ちょっと変な匂いもしていた)
おそらくジャレット・ファンであろう、あの人たちがこの映画をどう思ったかは、大いに疑問。
若い人に見てほしい…って、この会話、違うトピックでも何度したことかと思ったよ。まぁ、私たちの世代の伝え方がいけないんだろうか、と思う。でも私は若い人にこの映画を見てほしいな。そして女の人にも。
と、ここまで書くと、名盤「ケルン・コンサート」を久しぶりに聞きてぇ〜っっという声が聞こえてきそうなので、下に貼り付けておく。
音楽は本当にすごい。なんども言うが、すごい音楽は演奏者、コンサートの主催者、プロデューサーら、あらゆるものを犠牲にして、こうやって私たちに届けられる。
ところでパンフレットに掲載されていたヴェラのインタビューがいい。彼女はこの話を監督にしたあと、ほとんど映画の制作には口を出さなかったそうで、かつこのキースとのエピソードも彼女にとっては数ある大変だったことのひとつ、と割りきっていてドライなのがいい。
「この件については、言われなきゃ、普段は思い出しもしません」的な(笑)いいわぁ、いいわぁ。
この公演のあと、何年かして公演先のキースに会いに行ったのに会えなかったことなども語っている。でもそれでいいのだ。そっちの方がいいのだ。絶対に。
まぁ、その点、私の場合はミュージシャンとは一緒にツアーしたりして、数日間は寝食を共にしてるし、何度も同じアーティストの公演を続けてやったりしているから、アーティストとの人間関係もまた違うのかもしれない。
でも彼女のサバサバぶりにも感動する。本当に素敵な人!!!
はぁ、それにしてもいい映画だった。実際、すごく笑える映画でもあり、泣いたり笑ったり忙しく、あっという間に終わってしまった。絶対に見て!
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◎1996年からかかげてきたTHE MUSIC PLANTの看板は2025年12月にて下ろしました。公式サイトは近日中にアーカイブ化する予定。自分の主催公演や招聘はもうやりません。ただ2026年も若干の雇われ・お手伝い案件(笑)があるので、そちらはゆっくりとこなしていく予定です。
◎現在リリースしたCDの販売は終了しておりますが、書籍はあいかわらず販売しております。アイルランド名盤ガイド。楽曲への配信のリンク(Spotify)や、来日時のインタビュー、エッセイなど充実の内容。ポール・ブレイディ、メアリー・ブラック、マーティン・ヘイズ&デニス・カヒルの3冊です。こちらへどうぞ。
◎神保町すずらん通りのパサージュにてケルト書房という棚を運営しております。ケルト関係の書籍や友人の書籍などを販売中。こちらへどうぞ。
◎パンデミック後くらいから作曲家:日向敏文さんのお手伝いしております。昨年の6月25日に新作「the Dark Night Rhapsodies」がリリースされました。こちらが特設ページ(Sony Music Labels)。アナログ盤と、ピアノ小品集の楽譜は日向さんのサイトで通販中。
◎その日向さんは、91年の大ヒットドラマ『東京ラブ・ストーリー』のサントラを手掛けていたわけですが、そちらが35周年記念のリイシューされることになりました。詳細はこちら。 最新インタビューをotonanoにて連載中!
さらに今まで配信されていなかった『アナザー・グラフィティ』『妹よ』『陽のあたる場所』『愛という名のもとに』『ええにょぼ』も3月25日より配信スタートしております。


