ポール・リンチ(訳:栩木伸明先生)『預言者の歌』トークイベントにお邪魔しました

やっと赤羽で髪を切った日の夕方、アイルランド大使館さんでブッカー賞を受賞されたポール・リンチさん来日トークイベントということで、行ってきました。

ううう、感動だよ…。憧れのブッカー賞。ブッカー賞の作家さんとリアルに会えるなんて、ちょっと嬉しすぎたかもしれない。すごい。震えた。イシグロもそうだったけど(すでに過去形)、ちょっとミュージシャンみたいでかっこいい! ポール・リンチさん。

こちらのお写真は公式サイトより。

(c) https://www.paullynchwriter.com

イベントは翻訳された栩木先生とポールさんのお二人の登壇で、通訳を挟みつつ進行しました。

それにしても上のサイン。栩木先生、素敵すぎませんか? もう最高!(笑)私は栩木先生はウイリアム・トレヴァーの翻訳で大ファンなのです。 ポールの代理、とか書いちゃって翻訳家として、控えめな感じといい、栩木先生ファンは、萌え〜ですよね(笑)

お話はとても面白かった。以下は私があくまで手書きメモで書き取ったことをまとめているので間違いや、誤解などがあったらすみません。

のちほどハヤカワさんの方でちゃんとレポートをまとめられるのかもしれませんが、私の感想、理解した内容ということで文責:のざきで書いております。よろしくお願いいたします。

ちなみにこの本ですが、私はまだ読み終わっていません。このイベントの話を聞いた時「あぁ、読んでからのぞまなくちゃ」と思って積読山から救出したものの、別の仕事の案件で急遽読まないといけない本が出現し、そっちを読んでいたら、読み終わらなかったのです。

とはいえ、髪を切ったあと、イベントまで時間が空いたので、その間も必死で読みました。(が、まだ読み終わっていません)


コージーコーナー、ショートケーキDAYで、割引のショートケーキと読書という最高の時間 in 赤羽。

この本はポールさんの5冊目の長編でブッカー賞受賞作。ポール氏は、1977年生まれリメリック生まれ。

現在までにこの本は42カ国で翻訳されているそうです。ちなみに小説家になるまでは、ポールさんはジャーナリスト、映画批評家として活動されていたとのこと。(メイン媒体はIrish Sunday Tribuneって言ってたかな。私も彼の文章を過去に読んだことがあったかもしれない)

1冊目の『Red Sky in Morning』、2冊目の『The Black Snow』、そして3冊目の『Grace』。ここまではドニゴールが舞台なんだって。

そして4冊目の『Beyond the Sea』は南アメリカ(って言ってたよな…)が舞台。そして今回の『Prophet Song』だけど、ここにはダブリンと明記されてないけど、おそらくダブリンだろうと思わせる記述がある…なので、ダブリンが舞台と考えて良いだろうとのこと。

冒頭で、ポールさん。「この本はいろんな言語に訳されているのだけど、10冊翻訳本が出てもまだ日本が決定していなかった」

「何度も日本語はまだか、まだかと思っていた」「日本はすごく魅力的な国で、シネマ、小説、禅などの考え方など、自分は多くの影響を受けていると思っている」

また3作目から「過去形ではなく現在形で物語を描くようにしている」その方向転換の理由を聞かれ、いろんな文化から吸収し、それを自分のものにしていくわけだけど、俳句の中の瞬間を誠実に捉えるという考え方にも影響受けているかも、とのこと。

本当に日本に来れて嬉しい。出版社、翻訳の栩木先生、みなさんの協力があってこそ…と。

ここで栩木先生も(栃木先生!!❤️)実は翻訳家の鴻巣友季子さんとも話したことだけど、クレア・キーガンも同じ、現在形で書く人ですよね、と。(うわぁ〜←もうそれだけで萌えポイント!・笑)

この物語は、普通の生活を営んでいる家族に緊急事態が起きる、法律、憲法が改正され右に傾いた世界を描いている、と。治安警察にいきなり捕まるなど、権威主義の政権によって法律が改正されたった二ヶ月後の話が書かれている。(これ、今の日本に響きすぎるよ…涙)

主人公の女性は科学者。分子生物学の研究者。そして彼女の旦那は教員で、アイルランド教員組合にも関わっている。その彼が治安を乱しているのではないかという疑いをかけられ急に治安警察に拉致されてしまう物語。

一家に迫ってくる危機。お父さんはいきなり警察に連れていかれ、そしてそのあとは長男が病院?に運ばれたまま、なぜか行方不明になってしまう。

主人公は自分の家庭に具体的にこのようなことがあるまで、その迫ってくる危機に気づかなかった(これって、このあと登場する中島京子先生の『小さなおうち』にも通じるじゃありませんか!!!?)。この国でそんなことは絶対に起こらないとずっと思い込んでいた。

主人公は、そういうある意味、近代的な、かなり良い心もちの人間だった。彼女が必死に自分には見えていなかったものに問いかけていく、なんとか起こっていることを紐解こうとする、そういう内容の本。

その姿を、社会の構造を描くのではなく、一つの家族の立場から書いている、家族の視点から世界を見ている、というのがこの本。主人公には、残された13歳の子供(次男?)、そして認知症が少し進んだお父さんなどがおり、すべてが自分の物語としてふりかかってくる。

ポールさんいわく「この本は政治的だと言われることが多いけど、私はそうは思わない。ギリシャ神話とか精神的な話をベースにしている」

「政治的フィルターをかけるのは、面白いとも思う。でも私は人々の毎日のことを描いている。そこに最新のテクノロジーが入ってきたり、日常に根付いた物語を描いたつもり」

日常を生きているということは、実はとても大きな尊厳であり、自分の国に起こっていることを必ずしも人々はちゃんと理解しているのではない。

それは実際の生活では可能なこと(つまり大きな尊厳だと自覚できていなくても日常生活は送れる、というのをおっしゃっているのだと思います)。

次に起きるであろうことから、今、現時点での自分たちは距離があり、未来の予言は不可能。でも(ある日突然)世の中が変わり、日常が崩れるというのは、ありうること。

今の現実の世界と共鳴する部分がある。(ウクライナやイランなどなど)

(これメモには書いてなかったんだけど、ポールさんはシリアの件からこの本を書き始めた、って言ってたかも? そしてそれが予言のように効いている現実よ… とほほ)

エイリッシュ(主人公)の少しボケたお父さんは、まるで預言者のよう。彼ももともと科学者で、エイリッシュも科学者。ある意味、二人は合理的で客観的。科学の重要性をうたっている。ロジックで考える人々でもある。

この本では、そんなエイリッシュの感情の部分を伝えようとしている。

そして男たち(主人公の旦那、長男)は、みんな海に取られちゃうという考え方。(ここでギリシャ神話のオイディプス(エディプス/預言者)の名前があがっていました)

ところが、今や、それが現実に起きている世の中になってしまった、ということ。

この本が何を示しているかと聞かれれば、こういった状況下における本格的、徹底的な共感を(読者に)体験してほしいと思っている、と答える。シュミレーションという言葉を使いたいと思っている。(うーん、なるほど!!!)

(この本が描いている)状況に対しては、一人一人、読者が自分で解釈すればいいと思う。読者によって感想は違ってOK。ディイストピア、近未来観は、確かに存在すると思う。『1984』の名前を出す人もいる。

とにかくいつもクレスチョンはそこにある。でも、そこに著者である私が回答を出すことが目的ではない。質問を読者に提示することが小説家の目的で、そこが重要だと考えている。

我々の中には、エイリッシュ(こちら側)、そして他の人たち(them)という普遍的な壁がある。

(すみません、この辺自分で書いた文字が汚すぎて、自分で読めません)

ネガティブ・ケイパビリティの重要性を私は強調したいと思います、とポール氏。不確定なものを不確定に取らえる力。闇の通路を進む感じ。見えているのはマッチの炎で、実際にとても小さい。

とにかく回答を持って(小説を)書いてはいけないと、いつも思っている。真のアートは、よく理解できない疑問の中を読者とともに歩いていこうとすることだ。

その後、お二人の朗読コーナーあり。冒頭の部分を読まれていました。

この朗読いいよね!! 海外のブックストアイベントは朗読会が多い。日本のブックイベントはだいたい内容の解説トークになっちゃうけど。

栩木先生より「この本は改行が少なく、多いところで2ページ半、まったく改行がない。見えないところを手さぐりで歩いていく感じがする」、と。

「ユリシーズみたいに声に出して読むとわかるテキストだと思う。魔法のテキスト」と。

ポールさん「翻訳家はすごい。私も翻訳物をよく読むんですよ」と。川端、谷崎。オリジナル言語で読まないことによって、もしかしたら見落としていることもあるのかもしれないけれど、私は完全に物語の中に入り込める。

翻訳家は文化と文化の橋渡しをしていると思う。

ここで、会場からの質問を受けての、ポールさんの回答より。

社会はもろい。制度の中で簡単にほどけてしまう。一方、個人個人は、自分の日常をこなしている。

文明というのは極めて薄い表面的なもの。一方人間は、常により良い人間になろうと日々頑張って生きており、一人一人の中には何百年の進化が見られる。しかしながら、生きている中で部族的意識(?)を、自分たちと奴らという壁を、知らず知らずのうちに作ってしまう。

例えば日本は大変な経験をされていて(原爆のことを言っているのだと思われます)それは生きている記憶として語り継がれるものだと思う。

知らない若い人たちは、常に問いかけている。(それなのに)独裁主義を支持する人はびっくりするけど意外に多い。今の生活の良さを実感してほしい。生命の豊かさ、日々苦しむけど素晴らしいということ。手の平の中にある幸せを認める重要性。

SNSで、短い文章(すぐ止まる単純な文章)が社会に広まっている。でもリアリティにおいて、フルストップ(句読点/ピリオドと言ってもいいかも)は存在しない。無限に繋がっている。その中で複雑さをつかもうとする(のが人間だ)。

若い人を文学を振り向かせる。複雑なものに向かせる。グレイに誘導していく。「理解するのは、ちょっと難しい」という領域は、実はすごく重要。

自分は大学の講師もしている。文章を書いていても、若い人に読めるかな、と時々思う。それでも難しい複雑な問いに踏み込む。生命はこういうものだと伝えていかないといけない。

SNSはそのすべてを簡素化してしまう。それがトランプに繋がる(ここで拍手すればよかった!!!>>後悔)

(次の、とあるショッキングなシーンをネタバレしないようにと言いつつ、あのシーンはとてもショックだった、真っ青になった、一生忘れないと思ったという会場読者からの質問に答えて)

そこのシーンは確かに不安で自分でも書くのが怖かった。実は、あのシーンには、3、4ヶ月を要した。3、4ヶ月書けなかった。でも自分の小説家として目的を考えた。真実を語ること。そこから目をそむけないようにと闇をのぞいているような気持ちだった。

(自分でも辛かったけれど)読者をそこに誘導する責任が自分にはあると思った。(←ここ良かった・涙 早く読みたい!!)

作者もこの物語を読者とともに体験しているんです。そして、真実がそこにあると思ったんです。そのシーンは、ちょうどパンデミックの時期、田舎まで行って、そこに1週間こもって、自分の気持ちに集中し、感じいらないと書けないシーンだった。

圧倒されるような気持ち。闇の一番そこを覗かないといけない。大変なリスクだと思った。

でも小説家は、読者の慰めをやっているのではない。それが良きフィクションの証だと信じる。真実を描くことをやっているのだ、と(自分を奮い立たせた)。

うーん、すごいな。ポールさん。

通訳さんも、すばらしかった。お名前を失念しちゃいましたが、おつかれ様でした。非常に分かりやすかったし、二つの言語を訳して、それを聞いているというストレスをまったく感じさせないプロフェッショナルぶりに感動!! ありがとうございました。

こちらが大使のスピーチ。


そしてお二人による朗読。


終了後は、本を持ってきた人へのサイン会(including me)もあって、めちゃくちゃ嬉しかった❤️。それが、このページの一番上の写真です(笑)。栩木先生のサイン、いいでしょ?

他にもイベントには先日鴻巣さんのとのイベントでお話を伺った中島京子先生もいらっしゃっていて、サイン会の列でたまたまご一緒し、お話をさせていただき感激(ミーハーなわたくす)。

そして、会場でお姿をお見かけしたのは、こちらの会長さま。ハヤカワ、海外SFのイメージがあったけど、とにかく海外のものを翻訳するということでは、本当に素晴らしい出版社。

翻訳ものを紹介して80年!! 確かにイシグロとかもハヤカワだもんね。もちろんクレア・キーガンも。これからもアイルランド文学をよろしくお願いいたします!!

こちらのシリーズもぜひ応援していきましょう。一応初回の2冊は両方ともゲットした。早く読まないと。詳細はこちら。新潮社のクレストを、もう積極的に応援できない今(何度も言う)、今後私の本棚にこの背表紙が並んでいきそうだ。




終わったあとは四ツ谷の居酒屋さんで会場で偶然合流したアイルランド仲間4人で、なんとはなしにご飯。なんかこういうのっていいね、という話になる。

アイルランド以外にも、他の大使館さんにも出入り経験あるけど、アイルランドみたいにコミュニティがあるのは、本当にアイルランドだけだね、とみんなで話す。

ほんと!! 相手が大学教授だろうが、政治家だろうか、実業家だろうが、会社役員だろうが、偉い人(笑)だろうが、まったく垣根がないのはアイルランドだけかもしれない。

アイルランドを通じて一生付き合える仲良しさんもできた。そこがやっぱり素敵な国だなぁと思った。アイルランドが私に与えてくれたものは、本当に大きい。

そうそう、久しぶりにお会いした大学の偉い先生にも「野崎さん、ブログ読んでるわ」と言われ、やばい、ちゃんと真面目にここを書いていこうと思ったのでした。

それにしても読むのが楽しみ。イシグロが『Never Let Me Go』を書いた時、SFだなんだ言うウザい連中がいたが、違うんです! あれは人間を描いている、すごい物語なんですよ。

同じハヤカワだし、こんなお話聞いちゃうと、ポール氏にもそれをついつい期待してしまう。早く読見終わろう。読み終わったら、また感想を書きます。

取り急ぎ、応援コメント早く!という原則のもと、レポートしました。会場にいて、それは違うよ、とかご指摘あれば、ぜひご連絡ください。

◎1996年からかかげてきたTHE MUSIC PLANTの看板は2025年12月にて下ろし、公式サイトは近日中にアーカイブ化予定。自分の主催公演や招聘はもうやりませんが、2026年も若干の雇われ案件があるので、そちらはゆっくりとやっていきます。

◎よく聞かれるので、ここに載せていこう。最近観た中でベストな映画はこれベストな本はこれです。

◎現在CDの販売は終了してますが、書籍はあいかわらず販売中。アイルランド名盤ガイド。楽曲への配信のリンク(Spotify)や、来日時のインタビュー、エッセイなど充実の内容。ポール・ブレイディ、メアリー・ブラック、マーティン・ヘイズ&デニス・カヒルの3冊です。こちらへどうぞ。

◎神保町すずらん通りのパサージュにてケルト書房という棚を運営しております。ケルト関係の書籍や友人の書籍などを販売中。こちらへどうぞ。

◎アイルランド映画祭、今年もやりますよ! ぜひご来場ください。5月29日よりYEBISU GARDEN CINEMAで2週間。毎日19時から。詳細は公式サイトirishfilmfes.jp  公式X@irishffjp まで。

6月9日にはドーナル・ラニーのドキュメンタリーの映画上映と、ピーター・バラカンさんの解説あり(野崎は聴き役として登場予定)。予約開始はまだ先ですが、今から予定しておいてください。


◎最近、こんな応援記事を書きました。ぺッテリ・サリオラの来日記念盤@Intoxicate

ピーター・バラカン Presents 未来へのプレイリスト 毎週金曜日 ETVにて22:30から放送中。6月いっぱいまで続きます。

◎あいかわらず無印良品BGMの仕事はしております。この4月27日より昨年録音にかかわったデンマーク編が配信スタートしております。良かったら、聴いてください。店頭ではすでにその2週間くらい前から流れているようですが、結構まだBGM29のスコットランドもたくさん流れますね(のざき調査による)。

 

◎パンデミック後くらいから作曲家:日向敏文さんのお手伝いしております。昨年の6月25日に新作「the Dark Night Rhapsodies」がリリースされました。こちらが特設ページ(Sony Music Labels)。アナログ盤と、ピアノ小品集の楽譜は日向さんのサイトで通販中


◎その日向さんは、91年の大ヒットドラマ『東京ラブ・ストーリー』のサントラを手掛けていたわけですが、そちらが35周年記念のリイシューされることになりました。詳細はこちら。 最新インタビューをotonanoにて連載中! 

さらに今まで配信されていなかった『アナザー・グラフィティ』『妹よ』『陽のあたる場所』『愛という名のもとに』『ええにょぼ』も3月25日より配信スタートしております