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ワールド・ミュージック・ファンには、BBCの強力なバックアップのもと世に紹介され、来日もしたワルシャワ・ビレッジ・バンドが記憶に新しいかもしれない。またユダヤ系、ロシア系のショウ的な要素の濃いいくつかのグループも活躍しており、それらがポーランドの伝統音楽として国外に受け止められることは過去にも多くあった。だが、現在ワルシャワを中心に起こっているこのフォーク・リバイバル・ムーヴメントは、それらとはまったく種類が異なる物だ。
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私が訪ねたヤヌシュが主宰する「ワールド・オブ・マズルカ・フェスティバル」には、ハラール・ハウゴーやノルディック・トゥリーなど国際的なアーティストも参加したことがあるようだが、基本的にはポーランド、そしてロシア、ベラルーシ、ウクライナ、バルト三国などの周辺国に住む「本物の」農村伝統音楽家たちを紹介する1週間のフェスティバルである。
月曜日から金曜日までは、町の図書館のホールを利用して行なわれ、キャパは約300名程度だろうか。それでも会場後方は立ち見のお客で溢れるくらいの大盛況。客層はこのテの音楽のイベントにしては異様に若い。(通常この類いの音楽は文化センター的なところで催され、客の年齢層は圧倒的に高いのが特徴なのだ)そしてその多くが自らも演奏するプレイヤーたちのようだ。ホールの階段やロビーでは、楽器を持った若者たちによる自由なセッションがあちこちで始まっていた。 週末になると会場は、町の外れの要塞のような大きな建物に移され、ここで2,000人以上の人たちが朝まで踊り狂うという狂乱のダンス・コンサートが催される。そして昼間はたくさんのワークショップが催され、ヨーロッパ中から楽器を持った若者達が、農村の音楽家たちに教えを得るために集まるのだ。
いずれも特徴的なのは、必ず本物の「農村の音楽家」たちがきちんとフィーチャーされている、ということ。ハンガリーのダンス・ハウス運動と同様、オリジナルに当たることは、ここのフォーク・リバイバルにおいて大変重要視されている。農村の音楽家たちはかなり高齢で(90歳くらい?)、その音楽は荒っぽくステージのためのエンタテイメントではありえない。しかしながらそんな彼らの横には必ず若いミュージシャンが寄り添い、彼らのステージ運びを手伝う。
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そして夜はいよいよこのフェスティバルの大フィナーレ、朝5時まで行なわれるという大ダンス・コンサートだ。30組ほどのバンドが30分くらいずつ次々と演奏し観客のダンスを盛り上げる。当然のことながらヤヌシュたちのカルテットは一番盛り上がりを見せたのだが、彼らが特にトリをつとめるとか長く演奏するといった事もなく決まりの30分で演奏を終了すると、次のグループへと演奏のバトンを渡した。その間もヤヌシュはプレゼンターとして次のバンドを紹介したり、セッティングを手伝ったりと大変な忙しさだ。
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一方で、ヤヌシュたちが牽引する、現在ワルシャワのリバイバル・シーンを支えているのは、都会で生活するミュージシャンたち。つまりこの音楽を自ら選んで集まった人たち、というところが重要だ。現在東京でも多くのケルトや北欧の伝統音楽を演奏するバンドやプレイヤーが急増しているが、現在伝統音楽シーンをささえているのは、農村に住む音楽家ではない。こういう「自分から好きな音楽を選び取って行動した人たち」なのである。ヤヌシュは、そのリーダー的、シンボル的存在だ。ヤヌシュいわく「今までずっと世界中の伝統音楽を聞き、それらを演奏してきた」「でも一番素晴らしい音楽が自分の住んでいる場所、半径100km圏内に存在していたんだ」「最後の最後にそれを見つけた」 「それはすでに自分の中に存在していたものでもあった。再発見だ」
SONGLINESの特集記事でも指摘されていたことなのだが、現在ワルシャワで起きているこのフォーク・リバイバルは70年代のハンガリーのダンス・ハウス運動を連想させる。70年代、ムジカーシュのメンバーなどを輩出した、やはり都会のインテリ層のミュージシャンたちによって牽引されたコマーシャリズムとは一切かけ離れたフォーク・リバイバルだ。
ヤヌシュは言う「農村マズルカを、そのまま演奏することが重要なんだ。なるべくオリジナルに近い形で、注意深く“フォーク・ショウ”にはならないように注意する」「そして僕らはオリジナルに触れて、直接学ぶことをもっとも重要視している」
このシリーズの第2回はこちらで読めます。
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<ヤヌシュ・プルシノフスキ・コンパニャ来日公演>
6月8日(土)武蔵野文化会館小ホール SOLD OUT
6月9日(日)北とぴあポーランド&ショパン祭 with 高橋多佳子
6月11日(火)名古屋 宗次ホール
6月12日(水)安来 アルテピア
6月13日(木)神戸 100BANホール
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