2枚目に選ぶのはシャロン・シャノン。シャロンについては、ここにも何度か書いているから説明の必要はないと思うけど(シャロン物語参照 → 前編 中編 後編)、なんというかシャロンを相手に「超絶テク」とか言っちゃうと、ちょっと違うかもなといつも思う。そもそもアコーディオンってすごく難しい楽器で右手の、蛇腹の使いのアタック感(というのかな…)や低音やコードなどを出すボタンなどが重要だと思うんだけど、シャロンの場合、彼女の右手はいつもスポンジの上でヒラヒラしてる。一方で、いわゆる超絶テク系のアコ奏者は、みんな右手より左手の方がすごかったりする(あくまで私の個人的意見です)。
ただシャロンの音楽を唯一無二にしているのは、右手の昔からあるメロディの捉え方だと思う。もちろんそれには左手の蛇腹使いは非常に大きな役割を果たすのだけど、とにかくメロディをどう捉えるか、ということが重要なのだ。例えばヴェーセンのニッケルハルパ奏者であるウーロフが「ヴェーセンのリズムは、いわゆる伝統音楽アンサンブルでリズム楽器とされるギターではなく、ニッケルハルパのメロディの中に内包されてる」って言ってたけど、まさにそれだよね。シャロンの場合、リズムは左手ではなく、右手(+左腕の蛇腹さばき)からやってくる。
いつだったかシャロンのインタビューで、子供の頃に聞いていた音楽は本当に伝統音楽ばっかりだったというのを話していたのに同席し、いたく感心した記憶がある。普通伝統音楽のミュージシャンでもラジオから流れて来たりするポップスやロックを聞くことは多い。シャロンの上の世代でもマット・モロイがザッパのマニアックなファンであるとか、アルタンのマレードがボウイのミーハーなファンだとか、そういう事例がたくさんあるにもかかわらず、シャロンの場合、もう純粋培養というか、根っから田舎の女の子というか、農場の子というか、そういう環境だったのだろうと想像する。尊敬するミュージシャンは?と聞かれてマイコ・ラッセルとか言ってたかな…。年齢が離れていようが超・爺さんだろうが関係ない。大親友になっちゃうシャロン。シネイド・オコナーやポール・ブレイディなど難しい人たちとも仲良しなのも理解できる。しかも兄弟が多くてみんなで楽器を取り合うようにして演奏していたという子供時代。なんとなくシャロンみたいな子が育った環境というのが想像ができますよね。
そういやポール・ブレイディが最初に公式来日した時、アルタンやシャロン・シャノンのバンドのゲストとしてケルティック・クリスマスに登場したわけですが、たまたまシャロンのバンドと到着日が一緒で、それでもフライトが違っていて、早く到着したシャロン一行はバスの中で待っていたんです。そこに御大登場。御大がめっちゃ不機嫌なので、みんなバスの中はシーーーーンとなっちゃったんですが、その時、明るくポールに話しかけていたのがシャロン。おかげでポールも少しずつ機嫌がよくなり、成田空港から都心までの長いバス旅の間、空気が和みました。あぁいうシャロンの誰に対しても壁を作らないところは本当に素晴らしいと思う。
シャロン・シャノン&アラン・コナー『イン・ゴールウェイ』
そんな明るくて、素敵なシャロンなんですが、この作品はおすすめ中のおすすめ。ぜひこちらも皆さんが選ぶ3枚? 5枚?の選択肢に加えてください。絶対に損はしない1枚。いや、DVDもついてるから2枚だよ。
とにかくこのライブで登場するアラン・コナーがめっちゃいい仕事してるんです。彼のことは私は詳しくは知りませんが、キーボードだけではなくギターやパーカッション、とにかくマルチなインストルメンタリスト。ちょっとしたフレーズがもうセンスがすごく良くって、彼の演奏に注目しながらこのCDを聴くと、なんというかニヤニヤが止まらない。
おそらく楽器を演奏する人ならわかってもらえると思いますが、メインのメロディが強いとバックする人は遊べるんですよね。何度も言いますがヴェーセンなんかもそう。ウーロフ(ニッケルハルパ)が絶対にゆるがないから、ローゲル(ギター)とミッケ(ヴィオラ)は自由に飛び回る。本当に音楽アンサンブルって、有機的というかオーガニックというか、生き物なんだよなぁ、って思いますね。
絶対に楽しい気持ちになれる一枚。ぜひ! 詳しくはこちら。