先日『コンサートホール x オーケストラ理想の響きをもとめて』を出された林田直樹さんと音響設計家の豊田泰久さんのレクチャーにお邪魔しました。すごく面白かった!(本の感想はここ!)
豊田さん周りの本は、すごく面白い。こちらの本もすごくいいからぜひ。私は豊田さんからお話を聞くまでオーケストラってどういうことなのか、まったく理解していなかった。豊田さんのお話を聞いてから初めて、オーケストラを聴くのが楽しくなった。
ぜひみなさんも「音響設計」って何か、オーケストラと音ってどういうことなのか、豊田さんの関連書籍をチェックしてほしいと思う。
というわけで、写真は、新宿の朝日カルチャーセンターに行く前に寄った、ガレット屋さん(笑)
豊田さんはラジオ出演されているのを何度か聞いたことがあるのだけれど、今回、初めて生でお会いできて感激したのでした。
以下はレクチャーに参加した私の個人メモです。私があくまで理解した内容であり、豊田さんがお話されている意図と違う形で受け取ったものもあるかも。だからあくまで文責:のざきでお願いいたします。
豊田さんによると良い響きとは?
豊かな響きとは、クリアな響き、臨場感という要素があるのだそうで、そこにホールの音響は大きくかかわってくるのだそうだ。
そしてホールの音響の決定要因とは、室形状、内装材料、そして良い演奏だ、と。
オーケストラの響きの味わい方としては、各楽器のバランス良く全部聞こえるということ。
そして心地よい距離感(個人の好み)。心地よい音量感(これも個人の好み)。この3つが「良い響き」を決定付ける、と。
豊田さんの説明で分かりやすかったのは、コンサート・ホールの音響を料理に例えたところ。
音響設計(もしくは指揮者)はシェフであり、音楽(オーケストラ、アンサンブル、ソロ楽器)は、素材であるわけで…
そして音響条件(室内形状、材質などの物理的な条件)は、調味料であり、調理方法(煮る、焼くなど)であると。
一方、科学的にも数値で出る残響時間は、塩加減(なるほど!)。塩梅とはよく言ったもので、多くても少なくてもいけないし、個人の好みによるところが多い。
そして良い料理は良い音響だ、ということ。そもそも感覚は人によって違う。人種やライフスタイルによっても違うし、夏と冬も違うかもしれない、と。
しかし…と、ここで林田さんが粘る。要は林田さんも私たち聴講生も聞き出したいのだ、豊田さんから。「いったいコンサートホールのどこで聞けば一番音がいいのだろう」「音が一番いいホールってどこなんだろう」
で、林田さんの質問が笑った。「でも料理でもありますよね。濃厚しかし後味さっぱり!みたいな…」林田さん、粘るな(笑)
いやはや音って本当に難しい。でも豊田さんが重要視するのは、各楽器の音がクリアに聞こえてほしい、ということ。というのも作曲家がその曲をそういう意図で書いているのだから。
一方でオケのプレイヤーたちは、意外と他の音がわかっていないことがある。例えばコンサートマスター(第1ヴァイオリン、最前列)は左の耳を痛めることもよくある。
結局のところオケの内部では、オケの人たちはそれぞれ全く違うバランスで聞いていて、全部聞けているのは指揮者のみだろう、と。
それにしてもホールをつくるというのはすごい作業で、それについての話もとても興味深かった。一つのプロジェクトが立ち上がる。そして自分がいかにそのチームに貢献できるかは、自分次第。
豊田さんの場合、まずはその中のキーパーソンが見えてくる、と。それはトップの人とも限らない。プロジェクトはヴィジョンがないと始まらないけれど、そのヴィジョンが語れる人が、そういう人になりうる。多数決では絶対に決まらない世界だと。
大きな団体や、クライアントの間で自分の希望を実現してきた豊田さんの話だから説得力があるし、そもそも音響設計だけに限らずどんな仕事でも言えることじゃないかしら、これ。本当に勉強になる。
そして、今回のこの講演で、一番興味深く印象に残ったのは、ではホールのどこらへんの席が一番いい音なのか、ということ。
最近はチケットを買う時、最近は自分の席が選べたりしますよね。一体どこの位置を買うのが正解なのか。
とはいえ、豊田さんはホールをつくる側にいるわけで、クライアントさんに対していろいろあるから、それを簡単に自分の好み・判断で言うわけにはいかない。なので、豊田さんの回答は、ひたすらそれは「個人の好み」と言うことになるわけで…(笑)
例えば! ここで豊田さんの例え話が面白かった。とある公演の時、関係者の中で、席を入れ替えて聞いてみようという作業をしたそう。この位置と、また別の位置と、どう聞こえ方が違うのか。休憩を挟んで、お互いの席を交換してみたそうです。
そして出た結論。全員が「後半の方が良かった」と(笑)
(つまりオケがホールに慣れること=という要素の方が(おそらく)公演では大事なのだろう、ということか)
林田さんの質問もすごくいい(笑)。でもS席とか、A席とかありますよね…と。いいぞ、林田さん、私たちが聞きたいのはそこなんです!(笑)
日本ではS席はホールの真ん中になることが多いけれど、アメリカでは最前列のことが多い。つまり良い席というのは、好みやカルチャーの違いである、と。
また公演によって、同じホールの公演であっても主催者次第でその席をSにしたりAにしたり、あくまでS席、A席は主催者判断である…ということ。つまりS席だから音がいいというわけではないということ。
これは確かにひとつ押さえておきたいポイント。
そして端っこというのは意外と気にしなくていいのだそうです。ただシューボックス型のホールでバルコニーの2列目とか「ステージが全然見えない」ことが多い。
で、この「見えない」という要素は、すごく感覚的に大きいもので、見えないことへのフラストレーションというのは下手すると聴覚よりも大きいから、注意した方がいい、と豊田さん。
だから多くの人が正面が好きだというのは、わかる。でも端っこだから音が悪いということでは決してない、ということなのです。ふーむ。
あとステージというのは消耗品で、チェロやベースのエンドピンなどで、実際めっちゃ傷だらけ。時々削ったりしてメンテするそう。し、知らなかった! 確かにクラシックのホール、結構穴が会いてたりする。
表面の板を張り替えたりする作業もあるそうで、それによってオケの音は全然変わってくるのだそうです。
例えばベルリンフィルの公演、某指揮者はもっと音を出せ、と非常にうるさく言ったそう。でも一方で、カラヤンの時はその床でも音はすでに十分に出ていたとか。(うわー、指揮者の仕事もすごいよな)
そしてオケにとって、やはり有利なのはリハをやっているところ=本番のステージというホーム公演。やっぱりそのホールの響きに慣れることがオケにとっては、とても大事なことだそう。そりゃそうだよね。よく想像してみれば、わかるわ… なるほど。
あと面白かったのは、ここはやめた方がいいという位置がホールには必ずあるそうで、その場所が、私たちPAを使って音楽をつくる場合、PAさんが一番嫌がる位置と同じだったこと(笑)。
それがどこかはここには書きませんが、今回の講演で、豊田さんは明らかにしていました。ふふふ、みんな知りたいでしょ。
確かに、私たちPAを使った公演でも、この場所にPA卓を置く場合、前もってエンジニアさんに「ここで大丈夫ですか」と確認するんですよ。その場所と豊田さんが指摘した場所は、まったく同じだった。
ここに卓を置く場合、エンジニアさんたちは、かならず卓から離れて音響を確認している(仕事増えちゃって、とっても大変そうだ…)。
もちろん電源の都合などで、どうしてもその位置ということもあるし、ライブハウスなんて卓の位置が借りた時点でもう決定しているシステムなのに、でも驚きなことに、そういう位置に卓を置いている超有名な小屋も存在している。
それがどこかはここには明かさないが、音楽好きじゃない人が作ったのかなと思う。なので、この辺は要注意。(まぁ、でもその場合でもなんとかしちゃうのが、音響さんの腕なんだよね。PA公演の場合はね)
その場所がどこか、わかる人にはわかるよね。わからない人は今度野崎にあった時に聞くか、豊田さんの講演を聞きに行ってみてください(笑)
とまぁ、豊田さんと林田さんのお話、時間がまだあと倍あってもいいくらい面白かった。そうそう、終わった後の質問で、自宅のピアノ演奏時の音についての質問も面白かった。自宅にピアノ置くって、ほんと場所を選べないよね。いやはや。
例えばホールが完成した時、クライアント(発注者)から呼ばれ、地元の音楽の名士(ピアノの先生的な)方が来られて、ピアノを弾き、ホールの音の感想を求められることもよくあることらしいのだけど、果たして自宅と音がだいぶ違うので、ピアノの先生は何も言えなくなってしまうことが多い…とか。
つまりピアノの先生だからって、音楽の全てをわかっているわけではないのだから、こういうクライアント仕事は難しいよなぁ、と想像する私なのであった。でもありがちなことだよなぁ、とも(笑)
そうそうホールの運営にしては、日本のそれとアメリカのそれではまるで違っていて、豊田さんと林田さんの新しい本では、そういった話もとても詳しく書かれていて、大変勉強になった。
いやーーー 音響って面白い!! またこう言う機会があったら参加したいと思いました。
豊田さん、林田さん、ありがとうございました。
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