田中ひかる『毒婦 和歌山カレー事件 20年目の真実』を読みました


まぁ、すごい本でした。すごい内容。田中ひかるさんによる和歌山カレー事件 20年目の真実。2018年の本。今、やっと読みました。衝撃的でした。それこそメディアで報道されていたこと、そして自分が持っている印象がひっくり返された。言葉もないです。

確かにめちゃくちゃ悪い人だと思われる、林眞須美容疑者。仕事もせず、性格が悪く、短絡的で配慮にかける。保険金詐欺については、間違いなく真っ黒黒の真っ黒黒だけど、彼女に死刑判決をもたらしたこのカレー事件についてはほぼ間違いなく無罪である可能性が高い。これは本当にやばい。私たちは無罪の人を死刑にしようとしている。この人が、そういう人だというなんの根拠もない決めつけのもとに、私たちは(この件については)を無罪の人を殺そうとしているということなんです。これはいくらなんでもひどすぎる。

確かに本人は、頭よく知的に振る舞うことができない人だということは間違いないです。マスコミに水をぶっかけたあの「絵」。裁判でも気分次第で黙秘してみたり、しゃべりすぎたり…  ぶっちゃけた話、ほんとに頭の良い人ではないんだな。とにかくやることなすこと印象がすべて不利に働き、すべてをダメにする。が、だからといって殺してもいいことには絶対にない。それにしてもひどい。ちなみに主人のいなくなった林家は落書きだらけにされて、最後は放火され消滅したのだそうでだ。今は公園になっているのだそう。

当時マスメディアでちやほやされていた目撃者たちが、実は誰も裁判できちんと証言をしていないって知ってましたか? つまり彼らは証言にまったく自信や根拠がなかった、ということ。でもテレビや週刊誌の取材は、何の権限があるのか、それを嬉々として眞須美容疑者が犯人だということの立派な証拠として伝えていた。いや、目撃者たちも悪気があったわけではないのは理解できる。でも、眞須美容疑者が蓋をあけて、それで白い湯気があがったとか、TVがしきりに言ってたの、私は覚えてますよー もう絶対にそうだ、みたいな言い方してた。みなさんも覚えていますよね? でもそんな証言は裁判ではまったくされなかった。そして、当初騒がれていたヒ素は実はまるで見つかっていないのだ。

まったく働いている様子がなかった、いや実際働かずに保険金詐欺で生活をしていた眞須美とその夫の健治。この旦那もひどい。が、二人の間には二人なりの絆はあり(最低だが)、報じられているように実は眞須美容疑者は夫を殺そうとしていた…という事実はないと推測されるに十分すぎる裏付けがこの本には書いてある。すべては二人とも合意の上のことだった。

また子供たちについては本当に同情するしかない。有名な死刑囚の子供として大変な人生を歩むことになる。長女は実はちょっとしたすれ違いで眞須美容疑者と激しいバトルになったのだそうだ。これも…言ってみれば、眞須美容疑者の頭の悪さと配慮のなさが原因だ。長女の気持ちは非常によくわかる。そして次女は、今、理解のある職場で頑張っているのだという。よかった。出所した父親が「林○○いてますか?」と職場に電話したら部長さんが出てきて「林○○という人はウチにはいません」と。で、あとで次女に聞いたら「マスコミが電話してきたから早くウチに帰れ」と逃してくれたんだって。そういう職場で、本当によかった…。そういう人たちに囲まれて頑張っているようだ。一方でまた30歳になった長男は母親の無実を訴えようと乞われるままにマスコミの取材を受けているそうである。本当に辛い。

まさに帯で宮台さんが言っているとおり。これは現代の「魔女狩り」だ。4人死亡、60人が病院に運ばれたあの無差別事件において、私たちは魔女の存在が必要だった。彼女はその立場になるのに格好の存在だったのだ。

私たちは今、こんなふうに公に人を殺そうとしている。この本を読んで、ますます死刑は廃止にすべきだという気持ちが高まった。まったく危ないったらありゃしない。印象だけで、彼女は絶対にやっている、有罪だ、死刑だと判断してしまう、私たちに人間には大きな大きな問題がある。本当に、本当にやばい。


死刑については何度かこのブログにも書いています。興味あったらぜひお読みください。
EUのシンポジウムに参加(これ、もう10年近く前だ… まるで進歩しとらん!)

PS
続報 長女の最後
そして